顧客を惹き付け、維持し続ける手法「ストーリー・テリング」
今年の「Experian CLIENT SUMMIT」のメインステージでは、「STORY TELLERS(ストーリー・テラーズ)」をテーマに、各業界から著名な講演者や、アナリスト、業界リーダーを招待し、マーケターが直面している問題、コンシューマーを理解するためのインサイト、そしてケーススタディーについての講演やディスカッションが行われた。
顧客を惹き付け、維持し続けるための、「ストーリー・テリング」の手法は、既にマーケティング手法として、これまでにも議論されてきたものではあるが、とりわけ今日のコンシューマーを想定した場合、どのような重要性を持って来るのだろうか。
今日の情報社会の中で、私たちはSNSを含め、さまざまなメディアに毎日触れている。あふれる情報の中で、良い印象として残るものは、それが自分にとって関係し、共感できるものだ。マーケターは消費者に向けて訴求したいストーリーを話すとき、それがどのように彼らの生活に関係するのかを実際にイメージすることが非常に大事になってくる。これが、このストーリー・テリングの根本的な考え方になる。
「ストーリー・テリング」の第一歩は顧客理解から
メインステージで行われた「Story Tellers Panel」では、実際にストーリー・テリングの手法を使って、カスタマーとコミュニケーションを行い、カスタマー・エンゲージメントを高めている各業界の代表を招き、ディスカッションが行われた。ここではECサイトを持つ3社である、靴販売のShoeDazzle社 マーケティング部門 SVPのDave Beveridge氏、ギフト販売のRed Envelope社のTerri Funk-Graham氏、アパレル系のThe Limited社 Eコマース部門 SVPのJenn McClain-De Jong氏、そしてヒップ・ホップ界のアイコン的な存在で、歌手マライア・キャリーやラッパーJay-Zとの共演もあるグラミー賞受賞アーティストのJemaine Dupri氏が登壇し、それぞれの体験や意見を共有した。
まず議論されたのは、ストーリー・テリングを行う相手、すなわち、いかにカスタマーを理解することが重要か、ということだった。
顧客を理解する取り組み
昨年設立50周年を迎えたThe Limited社は、近年、プロダクトおよびマーケティングの視点から、フォーカスするカスタマーがどんな性質を持っている人たちなのかをまずはデータを使って分析をしている。自社のデータベースおよび、第三者データも活用しながら、全体的な顧客像の把握を行い、彼ら・彼女らが何を欲しているのか、どのような顧客体験をしているのかを徹底的に分析している。さらに、実際にどのような服を着ているのか、どのようなライフサイクルを送っていて、どのようなライフステージにいるのかについても調査した。その調査結果をもとに、それぞれのチャネルを担当するオーナーは、カスタマーに対してのコミュニケーションを行い、その結果を元にコミュニケーションをブラッシュアップしていったという。
靴販売のECサイトを運営するShoeDazzle社のDave Beveridge氏は、メッセージングを考えた際に、地域のシューズストアが一人一人のカスタマーと会話をしながら、コミュニティーを形成し、全国規模へ拡大していくような例を挙げながら、顧客一人一人との対話がいかにビジネスを成長させるためには重要かを述べた。「巨大なデータがあつまるにつれて顧客はデータとなってしまう。まずは、靴を売るのが私たちの仕事。顧客が喜ぶような良い靴をそろえ、そしてそれにウェブサイトがついてくるだけ、という風に考えた」と述べる。そのような顧客の声を聞くために、顧客満足度調査を定期的に実施し、その結果を元にフォーカスグループを設定。そして実際にどのようにコミュニケーションをしていくかを検討していった。
また、ミュージシャンのJemaine Dupri氏は、音楽はストーリー・テリングそのものであり、ファンたちは、好きなアーティストの一挙一動に注目しているため、「音楽を通して伝えられるメッセージをファンは自分自身に当てはめる。アーティストがファンの欲するイメージと異なることをすると、そこでイメージ自身が崩れてしまいファンも離れてしまう」と語った。