ビッグデータ分析を活かした施策で売上3割減/失敗からリクルートが導き出した知見
次はリクルート「ポンパレ」の事例を見ていこう。「ポンパレ」は、人気のホテルや話題のレストラン、レジャー施設、エステ、レッスンなどのチケットを定価よりも安く購入できるフラッシュマーケティングサイトだ。

ポンパレに掲載される商品の販売期間は1~2週間程度。主な集客手法はメルマガで、50~60%はメルマガからの購入が占めるという。「つまりメルマガの商材の並び順が、売上にダイレクトに響きます。その順番によって、利益が大きく左右されるのです」と渡部氏。
そこで売上に大きく影響するメルマガに、ビッグデータを活用する取り組みを行った。過去の購買データや行動履歴をデータサイエンティストが分析し、これまでは人が行っていたメルマガでの商品掲載順の並べ替えなどを、全てデジタル化したという。その時に使ったロジックは、売れ筋の商品をメルマガの上部に掲載するというもの。ところがその結果は燦々たるもので、人がやっていた時と比較して、3割も売上が落ちたという。
そして渡部氏は、データにもとづいて配信したメルマガと、これまで人手で配信していたメルマガを比べてみたところ、いくつかの気付きが出てきたという。前者には、似たような売れ筋の商品ばかりが並んでいるため、品ぞろえ感がなかったのだ。
「お店に置き換えて考えた時に、売れ筋だからと言って同じ商品ばかりが並んでいると、品ぞろえ感がないのでわくわくしないですよね。もちろん売れ筋の商品なので売れるのですが、それはメルマガの下部に掲載していても売れます。それよりも、旅行も、食べ物も、化粧品もあるといったわくわく感が大事なのです。また新商品も、お店であれば全面に出しますよね。そのような人間の感覚をデータのロジックにきちんと組み込まないとダメなんだな、ということに気づきました」(渡部氏)
そこで「並び順に品ぞろえ感を出したい」とデータサイエンティストに相談し、アルゴリズムに組み込んだところ、30%下がっていた売上が130%にアップしたという。
「この経験から、データ単体を過信するのではなく、そこにビジネスサイドの感覚や戦略仮説をマージさせていく重要さを実感しました。きちんと戦略仮説を持って、ビジネスをよく知っている側の人間がデータサイエンティスト側に要望を伝え、情報をインプットし、コラボレーションをして初めて効果がでてきます」(渡部氏)
リクルートの予算獲得プロセス/ROIを意識した新時代のマーケティング
そして予算の獲得についての議論に移った。中でも費用対効果を厳しく追及するリクルートでの予算獲得までのプロセスが興味深かったので紹介しよう。リクルートでは、予算が最初からついていることはほぼないという。「特に新しいことをやる場合に関してはゼロですね」と渡部氏。
予算獲得の第一ステップとしては、まずは実験のプランニングをし、それに必要な最低限のコストだけ予算をもらう。そこで実験を繰り返し、わかりやすい結果や数値が出てきたタイミングで可視化し、ビジネスメリットを伝える。そして将来的な利益の試算をしたうえで、上司や上層部にプレゼンをしてある程度の予算を獲得する。そして今度は少し大きな実験をして、施策の確度の高さを証明できれば、大きく予算が下りて組織も作られるという。リクルートの組織風土が、予算獲得のプロセスにもよく表れているように思う。
そして最後に「今日のディスカッションでは、データから何かを発見するというよりは、データを使って上司や他部署をいかに説得して意思決定をはやめていくか。また施策につなげていくか、という内容だったと思います。個人的には、これらは新しい時代のROIを意識したマーケティングだと思っています。もちろんそこでもアドテクは活用しますが、アドテクだけで全て完結するわけではありません。バランスをとりながら、意思決定をしていくことがマーケターには求められるのでは」と友澤氏は語り、セッションを締めくくった。
