できるだけ優秀な会員を集めるにはどうすればいいか?
MarkeZine編集部(以下MZ):今回は、Yahoo! DMPを使って潜在顧客にアプローチした実例をご紹介いただきます。昨秋のアドテック東京にて、石井さんと青山さんが登壇されたセッションでは、速報的にこの事例を紹介されたそうですね。
石井:ええ、この施策はビズリーチさんと弊社との実証実験として行いました。ビズリーチさんの保有する優良顧客データをYahoo! DMP上で蓄積・管理可能にさせるところから始めて、潜在顧客層の発見を試みました。
MZ:まずは、ビズリーチさんの事業環境と課題を教えていただけますか?
青山:当社が運営する会員制転職サイト「ビズリーチ」は、管理職とグローバル人材に特化しており、現在会員が39万人、人材を求めている登録企業が2700社、登録ヘッドハンターが1100人います。求職者を企業に紹介する人材紹介業ではなく、当社はあくまでもプラットフォーム提供の立場で、求職者と企業やヘッドハンターとのマッチングを促しています。
課題は2つありまして、ひとつは管理職やグローバル人材を中心に集客しているため、ターゲットとなる人材にリーチする手段を増やさなければならなかったこと。もうひとつは、創業した6年前に比べてマーケットも好況で競合も増え、優秀な会員層の獲得が難しくなってきたことです。
会員はプロフィールを公開し、企業やヘッドハンターからのスカウトメールを受信できるのですが、当社としてはなるべく多くスカウトされるような優秀な会員を集めたい。つまり「新規獲得会員のうちの優良顧客率を高めたい」と考えていたんです。
Yahoo! DMPでセグメント抽出、Yahoo!プレミアムDSPで潜在顧客層へ広告配信
MZ:なるほど。単純に新規顧客の獲得最大化などは、すでにこれまでの施策でかなり進められていたんですか?
青山:そうですね、会員登録のCPA最適化、最大化はできていました。さらに、その中で優良顧客の率を引き上げられれば、ビジネスの拡大が可能だと考えたのです。とはいえマーケットには少ない層ですから、膨大なデータ量を持つYahoo! JAPANのデータを活用して、優良顧客となり得る潜在顧客層へリーチしたいと思っていました。その折に実証実験の話をいただいて、即決でした。
石井:実験のテーマは、「Yahoo! DMPを活用して抽出した見込み顧客層にアプローチすれば、優良顧客率が向上するか?」ということです。結果を先に申し上げると、既存手法で獲得した会員に比べてスカウトメールの受信率は1.4倍、一人当たりの受信数は2.4倍になり、優良顧客率は高まったといえます。
われわれもYahoo! DMPの本格ローンチ前だったので(※2014年9月提供開始)、9月のアドテックでの発表を目指し、施策の策定から実行までを一気に行いました。
MZ:では、どのようなプロセスで展開したかをうかがえますか?
石井:具体的には、以下のプロセスで進行しました。
- ビズリーチ様の優良顧客データをYahoo! DMPで蓄積・管理可能とさせる
- Yahoo! JAPANのマルチビッグデータと掛け合わせ
- 優良顧客(会員)になる可能性の高い行動を抽出
- 作成したセグメントをYahoo!プレミアムDSPにセットし、潜在顧客層に広告配信
スカウトメールの受信率は1.4倍、受信数は2.4倍
MZ:最初の、自社データのYahoo! DMP上での蓄積が、DMP活用の第一歩ですね。
石井:そうですね。ここでは、Yahoo!タグマネージャーの「Yahoo!タグマネージャーPlus」という機能を利用しました。
次に、Yahoo! DMP内でYahoo! JAPANが蓄積している検索や行動履歴、購買履歴などのマルチビッグデータと掛け合わせて分析をかけ、優良会員になる可能性の高い行動特徴を抽出しました。「サイトAのPVが多い」や「サイトBでショッピングをしている」、「○○というワードを△回検索している」などです。
それらから潜在/見込み顧客のセグメント化し、Yahoo!プレミアムDSPにセットして、広告配信を実施したという流れです。
MZ:時間軸での流れを教えていただけますか?
青山:5月末にお話をいただき、6、7月でシステムの実装やプロセスの立案などをヤフーさんと一緒に進めました。実際に広告配信したのは8月19日から9月12日の約1カ月間です。それから、その1カ月間で獲得した新規会員がどの程度優良顧客となるのかを計測しました。
MZ:そうして得られた結果が、会員全体の受信率が1.4倍、一人あたりの受信数が2.4倍だったということですね。ちなみにその際の比較対象になった既存手法での獲得についてですが、その手法は何だったのでしょうか?
青山:各種アドネットワークを活用していました。それまでも、ある程度ターゲット層の絞り込みはできていましたが、今回のYahoo! DMPのような、自社と第三者のデータを活用した優良顧客へのアプローチはできていませんでした。
社内の一気通貫の開発体制がスピード感の決め手
MZ:今回、かなりスピード感のある進行だったと思いますが、前例のない取り組みなのにここまで一気にできた理由は何でしょうか?
石井:ビズリーチさんの社内の理解があったことと、もともとインハウスの開発体制をとられていたので、動きが早かったことが大きいと思いますね。
マーケティング系の新しい施策は、企業内のマーケティング部門で「ぜひ」と返答いただいても、開発部門で急にスピードダウンしてしまうことが多いんです。そこを一気通貫で進めていただけたので、スムーズでした。
青山:マーケティング部門の中に、マーケティングチーム専属のシステム開発担当者がいるので、日ごろから連携はできていました。もちろん2カ月での開発はラクではありませんでしたが、ヤフーさんから技術面でも十分なサポートをいただけて、助かりました。
MZ:もうひとつ挙げられた、社内の理解という点は、こうした新しい施策に対してということですか?
青山:そうですね。当社は人材紹介業の会社と見られがちですが、あくまでもインターネットカンパニーです。それ故にデジタルを活用した最先端のマーケティング手法に対する啓発は社内でも常に行っていますし、積極的にトライする文化が根付いています。
特にDMPに関しては、アメリカではオーディエンスデータのエクスチェンジなども進んでおり、日本のずっと先をいっています。そういったトレンドの中で、我々が着手しないという判断はないよねと。また当社マーケティング部は、「日本最強のデジタルマーケテイング集団になる」とビジョンを掲げていますので、これからも新しい手法や施策をどこよりも早く挑戦していきたいと思っています。
潜在顧客層の発見がYahoo! DMPの強み
MZ:結果はお話しいただいた通り、目に見える成果だったと思いますが、いかがですか?
青山:まさに期待通りの結果が出て驚きました。同時に、これを第一弾として、データをどう活用していくかをもっと探っていきたいと改めて思いましたね。
石井:データを活用すれば潜在顧客層に効率的にアプローチできるだろう、というのは皆さん想像していると思いますが、なかなか実現していません。今回は、それを事例で証明することが目的だったので、しっかり数値を得られたことは大きな収穫でした。潜在顧客層をどう探し出すかにわれわれのYahoo! DMPの強みがあるので、その実証としては十分だったと思います。今後は、例えば優良顧客層という定義自体をさらに精度高くしていくことなども可能だと思います。
MZ:ヤフーとタッグを組まれたことに関しては、青山さんはどうお感じでしょうか?
青山:圧倒的なデータの量と質、そして本気でデータマーケティングを推進する気合いを最近のお取り組みからも感じていましたが、実際に進めてみると技術面含めて全体的にサポートいただける体制が整っていました。当社に寄り添ってやってくださったのが非常にありがたかったですね。
石井:当社では今回のような実験に限らず、仕様書を単に売るようなサービス提供はしませんので、どんなプロダクトでもサポート体制を万全にしています。必要に応じてデータの専門人材を擁する関連企業、Qubitalデータサイエンスとの連携もできます。
データドリブンマーケティングをさらに加速
MZ:これからYahoo! DMPの導入企業が増えていくと思いますが、こちらは利用自体は無料なんですよね。
石井:ええ。オープンなプラットフォームにしていきたいので、現在使われているツールを柔軟につなぎこんで展開できればと。ただ、もちろん無条件でつなぐわけではないので、リスクを担保しながら進めていきます。
MZ:そういうオープンなスタンスだと、企業としてもやりやすいですね。今回の件について社内からの反響と、今後の展望をお教えください。
青山:しっかり数値でポジティブな結果が得られたので、データドリブンマーケティングをさらに推進する方向にアクセルを踏めたと思います。今回は優良会員の獲得での活用でしたが、今後は既存会員の活性化や掘り起こしへも展開し、データ活用したマーケティングにおいて圧倒的なスピードで実績をつくるつもりです。
石井:当社としても、ひとつ事例ができたことは次へつながる大きな一歩になりました。CRMやメール配信など、広告以外のマーケティングチャネルへも今後Yahoo! DMPとどんどん接続していくので、そうした既存顧客層への深耕の部分でも事例をつくっていきたいと考えています。
【参考】Yahoo! DMP