マーケティング業界に一石を投じたセールスフォース
2014年は国内マーケティング業界にとって大きな変化の1年だった。その理由は2つある。1つは、ここ数年企業の経営戦略やITソリューション分野においてマーケティングの重要性が飛躍的に増す中、「マーケティング視点」で企業組織や業務プロセスを見直す動きが高まってきたことだ。
マーケティングオートメーションの台頭もその一つだが、何といってもインパクトがあったのは2014年にセールスフォース・ドットコムが発表した「Salesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)」だろう。Marketing Cloudは、企業がマルチチャネルで顧客一人ひとりと最適なコミュニケーションを行なうためのプラットフォームで、その背景には企業と顧客の間にある“ギャップ”解消という狙いがある。
このギャップとは、企業側が「マーケティングオートメーション」や「オムニチャネル」「ソーシャルメディア」など個別施策の運用に悩んでいるのに対し、顧客側はモバイルやソーシャルメディアなど新たなツールやチャネルを活用し、企業との接点を広げている現状を指す。つまり顧客の自由な行動に、企業側が対応しきれていない。この状況が改めて浮き彫りになったのが2014年であり、マーケティングの重要度が一層高まったといえる。
もう一つは、こうした状況を背景に、「これからの企業そして経済を牽引するのはマーケティングである」という考えに基づいて「JAPAN CMO CLUB」が設立されたことだ。
JAPAN CMO CLUBは、広く日本国内の企業で商品やサービスのマーケティングに関わる人々を対象にした組織であり、主運営に当たるのはマーケター向け専門誌『宣伝会議』を発行する株式会社宣伝会議。そしてJAPAN CMO CLUBのCMO(Chief Marketing Organizer)として具体的な活動を統括・発信しているのがセールスフォース・ドットコムの加藤希尊(かとう みこと)氏だ。
奇しくも、2014年の日本のマーケティング業界に大きな影響をもたらした2つの出来事に、いずれもセールスフォースが関与しているわけだ。
JAPAN CMO CLUBでノウハウを横展開する
セールスフォースは、JAPAN CMO CLUBに関しては完全に中立の立場をとる。「JAPAN CMO CLUBには他社ソリューションのユーザー企業も参加しており、日本発のマーケティングの知見やノウハウを蓄積し、国内外に発表していくことが目的です。セールスフォースのテクノロジーを啓蒙する場ではありません」と加藤氏は断言する。では、加藤氏がJAPAN CMO CLUBの運営に加わる意義はどこにあるのか。加藤氏は次のように説明する。
「いま企業が抱えるマーケティングについての悩みの多くは、個別のマーケティング施策についてです。業務に関わる人の立場もさまざまで、マーケティング部門の方、または広告の方と、企業ごとに役割も立場も異なります。縦割りの組織のなかで、それぞれに行き詰まりを感じている方が多い。いわば、サイロにはまって悩んでいる状態です。
一方、当社はグローバルに展開するクラウドカンパニーなので、さまざまな現場部門の方とお会いしますし、また国内外の方々とお話をする機会があります。そのため、多種多様な課題と解決パターンを見ています。さまざまなケースを比較検討できる立場であり、成功事例の良い点を取り入れていくためのノウハウもあります。
しかしこれまでは、そのノウハウを企業間の垣根を越えて横展開する手立てはありませんでした。JAPAN CMO CLUBはこうした状況に対し、『マーケターの集合知をつくる』というコンセプトの下、こうしたノウハウを横展開していくことを目指しているのです」(加藤氏)
トップマーケターが企業を超えて集う場に
加藤氏はかねてより、「トップマーケター/CMO」という分野を日本国内で定着させ、横連携していく体制を整えることで、「日本企業のマーケティングに関する知識や意識において、さらなる進化・発展が実現できるのでは」と考えていた。
セールスフォースは海外で数多くのイベントを実施しているが、海外では当たり前のように「トップマーケター」と呼ばれる層に向けた交流会やセッションを提供しているという。一方日本は、「CMO」という役職に対する意識が希薄であるうえ、企業間の垣根を越えてトップマーケターの横連携を支援する仕組みもない。そのため、「自社のユーザーという枠にこだわらず、日本の優秀なマーケターが集まるJAPAN CMO CLUBの活動は非常に意味があるものだと思います」と、加藤氏は語る。
なおJAPAN CMO CLUBは、「活動や成果、社会的役割を国内外に発信する」というビジョンを掲げている。これを実現するため、年6~8回の研究会やセミナーの開催、研究会レポートの配信や海外での情報発信などの活動プランを立てており、成果につながりそうなアイディアも既に出始めているという。
加藤氏が語るマーケティング最新事例
「MarkeZineDay 2015 Spring」に加藤氏の登壇が決定しました。最新マーケティング事例やJAPAN CMO CLUBの取り組みが、更に詳しく紹介されます。ぜひ、ご参加ください!
【セッション情報】「MarkeZineDay 2015 Spring 」A-5セッション
『The Future of Marketing 2015- One to One カスタマージャーニーから見えてくるマーケティングの未来』
◎紹介事例 (予定) : キンプトンホテルズ、LIVE Nation、東急百貨店、JAPAN CMO CLUB参加企業
・開催日/時:2015年3月17日(火)/15:30~16:20
・場所:ソラシティ カンファレンスセンター
・お申し込み:こちらから
カスタマージャーニーにおける「最も重要な瞬間」を考える
JAPAN CMO CLUBを通じた「成果につながりそうなアイディア」とは、トップマーケターの横連携から生まれるコラボレーションを指す。もちろん具体的な展開は今後のことになるが、まずは「コラボレーションを実現する土壌ができたことには大きな意義があります」と加藤氏は語る。
コラボレーションとは、それぞれの製品・サービスの特長を活かし、相乗効果で顧客に唯一無二のエクスペリエンスを提供することを意味する。例えば、昨年11月末にJR東海とJALが共同開発した旅行商品「航空×鉄道・おもしろ体験2日間」のような取り組みを想像すると分かりやすいだろう。
こうしたコラボレーション実施においてキーとなり、今日のマーケティングにおいて外すことができないコアコンセプトが、「カスタマージャーニー」だ。カスタマージャーニーとは、「顧客が広告を見る瞬間」「商品を買う瞬間」「クチコミをする瞬間」など、さまざまな瞬間が集まって構成されるもので、企業と顧客のコミュニケーションフローともいえる。
カスタマージャーニーという概念自体は新しいものではない。しかし、10年前と2015年のそれではその中身が大きく異なる。現在はモバイルテクノロジーの進化に加え、チャネル自体も、Webやメールやソーシャルメディア、そしてLINEのようなコミュニケーションアプリなど多様化している。そして顧客側がこうした新しいメディアやツールを使いこなしているのに対し、残念ながら企業はこれらのテクノロジーに対応しきれていない。つまり「カスタマージャーニーのフローは顧客側が選択している」という状態で、前述したとおり、企業と顧客の間に大きなギャップが生じている。
JAPAN CMO CLUBでは、トップマーケターが集まって「自社と顧客のカスタマージャーニーにおいて、最も重要だと思うポイント」を話し合っているという。例えばコーヒーを提供する会社なら「顧客がコーヒーのパッケージを開けて、香りを嗅ぐ瞬間」であり、ティッシュペーパーなら「顧客がドラッグストアやスーパーに置かれたパッケージを見て『かわいい』と思う瞬間」など、その企業の商材やサービスの特徴に応じてさまざまな重要ポイントがある。
「これはまさに、顧客が『商品を買おう』と決める瞬間です」と加藤氏。その瞬間こそが他社と自社の差別化ポイントであり、カスタマージャーニーにおいてその瞬間の差別化を図っていくことが今日のマーケティングなのだ。もし商材が異なっても、「重要な瞬間」を共有できるのであれば、企業同士がコラボレーションすることでより相乗効果を上げられるのだ。
まず行うべきはカスタマージャーニーの最適化
Marketing Cloudは、まさにこのカスタマージャーニーを最適化するためのソリューションだ。JAPAN CMO CLUBでは、トップマーケターが集結してカスタマージャーニーについて議論しており、新たなコラボレーションやノウハウが誕生する兆しもある。しかし、国内におけるすべての企業が同様のスキルを持っているわけではないだろう。加藤氏は「個別作業に忙殺される企業の多くが、そもそもカスタマージャーニーを描けていないことが多いのです」と指摘する。
例えば顧客セグメントなど基本的なことが疎かになっていたり、またソーシャルメディアアカウントをブランドや店舗ごとに管理してバラバラに運用していたり、さらには「コンテンツがどこに格納されているのか分からない」「スケジュール投稿も人力で行なっている」などのように、目前に迫る「作業」に忙殺されているケースも多い。こうした業務を各部署でやるべきことでなく、顧客がとる一連の行動という視点で整理し、戦略につなげられるのがMarketing Cloudの特徴だ。例えば、一元化されたダッシュボード上に、オフライン/オンラインを問わない顧客と接する瞬間を設計し、顧客とのコミュニケーションを促進することができる。
カスタマージャーニーを描きにくくなっている原因としては、多種多様なデバイスやチャネルが混在していることも一因だが、何よりも企業自身がテクノロジーに翻弄され、差別化となるポイントを見失っていることも大きい。Marketing Cloudはそうした根本を見直すのに有効なのだ。例えば企業・ブランドの特徴が「接客」であれば、店舗での対応はもちろん、アフターサービスに至るまで同様の質を保つ必要があるし、ソーシャルチャネルでの対応も見直す必要がある。
個別施策の運用に悩む企業にとっては大きな話に思えるが、逆に現場の担当者からすると、ビジョンなき施策の向上は見込めない。「サイロ化した課題に目を奪われるより、ビジョンを共有して根本に目を向ける企業のほうが、Marketing Cloudを上手に活用できると思います」(加藤氏)
加藤氏が語るマーケティング最新事例
「MarkeZineDay 2015 Spring」に加藤氏の登壇が決定しました。最新マーケティング事例やJAPAN CMO CLUBの取り組みが、さらに詳しく紹介されます。ぜひ、ご参加ください!
【セッション情報】「MarkeZineDay 2015 Spring 」A-5セッション
『The Future of Marketing 2015- One to One カスタマージャーニーから見えてくるマーケティングの未来』
◎紹介事例 (予定) : キンプトンホテルズ、LIVE Nation、東急百貨店、JAPAN CMO CLUB参加企業
・開催日/時:2015年3月17日(火)/15:30~16:20
・場所:ソラシティ カンファレンスセンター
・お申し込み:こちらから
マーケティングを意識した組織作りを実現するために
Marketing Cloudの提供を開始して約半年の間に、加藤氏はある気付きを得たという。それは、マーケティングを中心に据えたプロセスを構築するには、そもそも組織の作り方に大きな課題があるということだ。日本企業の場合、多くが縦割り型組織になっており、部門間を横断したプロジェクトを遂行するのは難しい。一時的なプロジェクトなら部門横断型の組織を作ることもできるが、業務そのものを組み立て直すことは非常にハードルが高い。
Marketing Cloudならば各部門間で情報共有を促進し、システムを使いこなす中で垣根を越えた協業体制を作ることができる。しかし、日本企業独特の「縦割りにサイロ化された組織形態」が、マーケティングに関わる大きなビジョン達成を難しくしているのは確かだ。
この課題はJAPAN CMO CLUBでも議論されており、各社さまざまな工夫をしているという。例えばある小売業は社内で推進委員会を立ち上げ、トップが横断的に号令をかけてプロジェクトを進める企業文化がある。また、ある外資系メーカーは事業部ごとにCMOを置き、全体的なマーケティング課題の解決については合議制を取り、予算や方針を決めているそうだ。他にも、カスタマージャーニーの中でWebが果たす役割の大きさに注目し、Web部門と宣伝部門を合併して全体を統轄する役職を作る取り組みがなされている。
「どれが正解ということはありません。企業文化や組織形態に合った課題解決を進めるべきです」と加藤氏。その点は、CMOという職種が認知されており、トップダウンで課題解決に向かう海外企業との大きな違いだ。こうした点を踏まえ、JAPAN CMO CLUBでは、CMOの役割やキャリアなど、CMOそのものの“姿”についても議論を進め、組織とCMOに関する知見の体系化を進めている。
「JAPAN CMO CLUBに参加される方はそれぞれに、マーケターや組織のあり方についての考えを持っています。さまざまな意見・角度から、日本のCMOについて考えていきたいと思います」(加藤氏)
2015年は成果や事例が数多く結実する一年
2014年は日本のマーケティング業界に一石が投じられた年だったが、見方を変えれば「種がまかれた」年でもある。カスタマージャーニーという概念的なキーワードがソリューションとして整理され、またトップマーケター同士の横のつながりが生まれたことで、さまざまなノウハウやコラボレーション事例が生まれる兆しが見えてきた。
加藤氏はこれらの活動を踏まえ、「2015年はより多くの企業がカスタマージャーニーを考える年、カスタマージャーニーが重要になる年になると思います」と述べる。その根拠になっているのは、大手企業を中心に国内でのMarketing Cloudの採用が進んでおり、今年後半はその事例が登場してくると予想されるからだ。なお、2013年に米マッキンゼーが調査した結果によると、適切なカスタマージャーニーを顧客に提案する企業はビジネス成果も上げており、「顧客満足度が30%高い」「購入可能性が20%に向上する」など、明確に数値に現れているという。
同時にJAPAN CMO CLUBでも、「カスタマージャーニー」「組織」「CMO」などさまざまな観点からマーケティングについて論議し、新たなコラボレーションや知見が生まれようとしている。種はいま確実に育ちつつあり、2015年後半には実が結集するはずだ。「今年はこうした知見や事例など、面白いことをいろいろ発表できると思います。近い時期だと、3月に開催されるMarkeZine Dayに登壇する予定です。そこで、いま芽吹いているいくつかの取り組みをお話しできればと考えています。ぜひ、皆さまにも楽しみにしていただきたいです」と、加藤氏は自信を見せた。
加藤氏が語るマーケティング最新事例
「MarkeZineDay 2015 Spring」に加藤氏の登壇が決定しました。最新マーケティング事例やJAPAN CMO CLUBの取り組みが、更に詳しく紹介されます。ぜひ、ご参加ください!
【セッション情報】「MarkeZineDay 2015 Spring 」A-5セッション
『The Future of Marketing 2015- One to One カスタマージャーニーから見えてくるマーケティングの未来』
◎紹介事例 (予定) : キンプトンホテルズ、LIVE Nation、東急百貨店、JAPAN CMO CLUB参加企業
・開催日/時:2015年3月17日(火)/15:30~16:20
・場所:ソラシティ カンファレンスセンター
・お申し込み:こちらから