日産の経営危機とマーケティングインテリジェンス
発表会の後半では、日産自動車コーポレート市場情報統括本部 カスタマーインサイトスペシャリスト 市川晃久氏が登壇。「マーケットインテリジェンスから見る市場の可能性」と題して、日産自動車のマーケティングインテリジェンスの成り立ち、経営課題にこたえるためのリサーチの刷新と組織づくりについて講演した。

日産自動車株式会社 コーポレート市場情報統括本部
カスタマーインサイトスペシャリスト 市川晃久氏
日産自動車市場情報部門(日産MI)が設立される以前、90年代の日産自動車は国内販売台数、輸出台数が減少し、赤字が膨らんでいく非常に厳しい経営状態だった。一方、顧客に向き合うために必要なリサーチの現場では、ある国の市場規模すら正確に把握できない状態だったという。そのため独立した組織を設け、調査予算を効率化し、販売台数目標のバリデーション(妥当性検証)機能を獲得。インサイトを自社の戦略に結び付けるための改革が始まった。
現在、日産MIが提供している調査メニューは以下の3つ。
・定期定量調査
・プライベート調査(社外)
・従業員調査
3つめの「従業員調査」は自社の従業員を対象として行うアンケート調査。質問内容は一部限定されるが、社内では「従業員調査でもこれだけのことがわかるのか」と驚きを与えるとともに、従業員ひとりひとりが「お客様のマインドを持つ」ことにもつながった。現在は蓄えた知見をもとに事業分野に提言する役割を担っているが、市川氏は最終的に市場調査部門を「蓄えた知見と将来の予兆をもとに、会社の全体戦略に提言」する組織に進化させたいと語り、講演を締めくくった。
現場の悩みとこれからのネットリサーチに期待すること
発表会の最後には、マネックス証券 執行役員 飯田 敦氏、Sansan エヴァンジェリスト 日比谷 尚武氏も加わってパネルディスカッションが行われた。

クラウド名刺管理サービス「Sansan」の日比谷氏は、当初B2Bで直販営業をしていていたころは、お客様とのコミュニケーションやマーケティングの発想がなかったが、個人向けアプリを出し、幅広い層に展開する際、いかに顧客の声を聴くかに苦労した。アプリのサービスは改善のサイクルが早いが、判断基準には頭を悩ませており、ユーザーの声を活かしきれていないと感じているという。
一方、ネット専業の証券会社マネックスの飯田氏は、コンタクトセンターやお客様感謝デーなど、顧客接点を多く取りつつ、購入やウェブサイトの改善につなげている。しかし、マーケットの動向に影響されるため、ネットのフロント部分の改善や機能拡張が自社の利益にどうつながったのかの計測が難しいこと、改善や機能拡張に対して「削除することの難しさ」があると指摘した。

日産自動車の市川氏はインサイトを見つけるのも難しいが、それを社内に伝える苦労もあるという。自分のカンで決めようとする人も多かったが、データを見ると全然違う。お客様のデータを見ることの重要性を理解してもらうのに何年もかかったと言う。市川氏は最後に「仮説を持つことが重要なので、そこをサポートしてもらえるのはありがたい」とクリエイティブサーベイへ期待を込めてエールを贈った。