見受けられた変化の兆候/示唆された未来のAdWordsの方向性
この度参加したカンファレンスシリーズは2007年に創設され、SEO、検索連動型広告に関する最新情報を求めて世界中からSEM従事者が集まってくる。SMXは各国で通年行われているが、中でも特に「SMX Advanced」は上級者向けと位置付けられていることもあり、スピーカー陣・参加者ともに、知識レベルや経験値は他の都市で開催されるものより比較的高い。2日間の短い期間であるが、内容が充実しているため、必ず何か得て帰ることができるイベントだ。筆者は2008年から毎年参加し続け、早8年目になる。例年、その年の全体的なトレンドを感じ取るようにしているが、2012年頃以降は大きな変化は乏しかった。ただ、今年は変化の兆候のようなものが見受けられた。
まず、2日目のキーノートセッションでは、スピーカーとしてAdWords製品担当VPのJerry Dischler氏が登場した。意外とこれは珍しいことだ。SMXは広義のSEM(SEO、検索連動型広告など含む)をテーマにしたカンファレンスではあるが、どちらかというと全体としてはSEO色がやや強く、そのためか、キーノートはいつも自然検索側のキーパーソンが務めることが多かった。Googleがプレミアムスポンサーということもあるのだろうが、ここ何年間かはGoogleがまったくプレゼンスがない年も多かった。
先日5月6日に行われたAdWordsの新機能発表イベントでもそうだったが、新機能盛りだくさんということだけでなく、近い将来のAdWordsの姿を示唆するような内容でもあったし、それをきちんと理解してもらおうとしていたのも印象的だった。必死とまではいかないが、以前よりも積極的な感じはした。そして、その背景には危機感のようなものを感じずにはいられなかった。実際、発表の直後、「ずいぶんFacebookなど他社を意識した発表だな」というのが率直な感想だった。そして、今回のキーノートもまったく同じような印象だった。実際、「そこまで言うのか!」という前例のない発言も多かった。
Googleの各種指標から見た、検索連動型広告の環境変化
キーノートでも、それ以外の幾つかのセッションでも語られていたのが、Googleの主要指標の直近のトレンドである。前回の決算では、Google関連サイトのクリック数は前年比で25%成長しているものの、クリック単価は前年比で13%下落したと報告された。実際、過去数四半期は、クリック単価は下落し続けている。もっと言うと、下落傾向は2011年から始まっている。
対談形式で行われたこのキーノートセッションで、モデレーターのDanny Sullivan氏(SMXの創始者)もこの点に関して、「昨年のエンハンストキャンペーンの効果がなかったのでは」と指摘していたが、Dischler氏は、「エンハンストキャンペーンの結果は良好で、モバイルのクリック単価はむしろヘルシーだ。クリック単価下落の要因はYouTube広告によるものだ」と説明した。正確には、「常にYouTubeだった」という表現をした。これは、前四半期の収支報告で元CFOのパトリック・ピシェット氏が言及していたことと同じで、2011年からの下落傾向のことか直近の四半期のことかは明確ではなかったものの、気になる発言だ。
Googleは歴史的に、Google関連サイト(google.comやYouTube)とGoogleのネットワーク(AdSenseパートナーなど)経由の結果しか公表してきていない。サイト別、デバイス別、広告メニュー別などは公表されず、推測するしかない。その意味でも、YouTube広告がクリック単価下落の主要な要因ということをエグゼクティブ陣が公に明かすのは、明らかに変化である。
広告表示本数が減っている?
一方で、非常に興味深いセッションが初日にあった。Merkle|RKGのAndy Taylor氏は、同社の調査によると、Google.comの検索連動型広告に限ってみた場合、以下のことが言及できるとしている。(数字は前年比)
●2015年Q1のクリック単価は13%高騰(直近6Qでは最高)
●2014年中盤以降インプレッションは下落
●クリック数は微増か変化なし
●検索結果の最初のページに広告を表示するために必要と考えられる最低入札単価(First Page Minimum)は175%アップ。
●平均掲載順位は改善傾向
●売上に関しては増加
(※数字は前年比)
つまり、トラフィックの成長は止まり、コストが上がり続け、より広告の掲載が難しくなってきているという状況だ。Taylor氏は、競争環境の激化も要因としてはあるが、上記の調査結果をすべてまとめると、なんらかの理由でGoogleが広告の露出性向を低め、その結果、検索結果ごとの広告表示件数も少なくなっている可能性があるのではないかという仮説を打ち立てた。
カンファレンス参加者の中には、かなり深く広告運用業務に入り込んでいる人も多く、現場感覚として同じように感じていた人も少なくなかったのかもしれない。参加者の一人が、前述のキーノートのQ&Aタイムで、Dischler氏にその点について確認をしていたが、当然Googleとしてはそれを認めるわけはなく、「売上確保のためにそういったことを意図して行う会社でない」と回答していた。
あくまでも仮説であるので、実際の理由はわからない。Taylor氏も、上記に言及しつつも所詮はGoogleの「ゲームの場」なのだから、ルールが変わっても、それに対応できるようにすることが肝要であるとしていた。ただ、Merkleと同じようなデータが今後も確認されるようであれば、ゴールや予算、期待値の再見直しを広告主や代理店はすべきだとしていた。過去のパフォーマンスは、今後あまり役立つベンチマークにならないかもしれないとも言及していた。
また、その状況をカバーすべく、逆に増加しているオーガニックトラフィック、つまりSEOは考慮すべきだと同氏は述べていた(”SEO is not dead”)。同時に、カムバックを果たしたYahoo!(”Yahoo! makes a comeback”)、トラフィックもジワジワ増えているBingも、うまく活用すべきと述べていた。
この状況がある程度現実的だとすると、SEOやYahoo!、Bingのみならず、増え続ける他の施策への予算変動も十分考えられる状況だと言える。ただ、当然Googleもこの状況を傍観しているわけではなく、機能追加・改良を加速させることで変えようとしている。