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『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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データ活用の現場を直撃!(AD)

マーケティングが営業・経営と一体となり、収益向上を目指す。それを支える、じぶん銀行のデータ活用に迫る

 「マーケティングは経営と営業の橋渡し」、「経営と営業をサポートし、ビジネスの成果に繋げる」。よく耳にする言葉だが、これを実現できている企業は決して多くない。だが、モバイルをメインチャネルとするインターネット銀行として著名なじぶん銀行は、まさにこれを実行し実現している。経営戦略部部長 井上大輔氏とマーケティング部部長 井上直樹氏が中心となり、分析システムとDWHを導入。データ分析を軸に、経営、営業、マーケティングの各部門が連携し、マーケティング効果の向上に取り組む。

ネット専業のじぶん銀行、その施策とデータ分析活用とは

 じぶん銀行はKDDIと三菱東京UFJ銀行が共同出資するインターネット銀行。設立当初からモバイルをメインチャネルとしており、2014年からはau利用者に向けた新サービス「プレミアムバンク for au」を展開している。同行はデータに基づくスピーディーで精度の高いマーケティングを目指して、分析システムとデータウェアハウス(以下、DWH)の導入を進め、SAS Institute Japan(以下、SAS)の分析ツールを活用している。

 今回、同行のマーケティング高度化プロジェクトの中核を担う、経営戦略部部長の井上大輔氏とマーケティング部部長の井上直樹氏に、SASの原島淳氏と望月美由紀氏が詳しい話を伺った。

右から株式会社じぶん銀行役員補佐 兼 経営戦略部部長 井上大輔氏、同社マーケティング部 部長 井上直樹氏、SAS Institute Japan株式会社 ビジネス開発本部 CIグループ マネージャー原島淳氏、同社ソリューションコンサルティング第一本部 Customer Intelligenceグループ CIチーム マネージャー望月美由紀氏
右から、株式会社じぶん銀行 役員補佐 兼 経営戦略部 部長 井上大輔氏
同社マーケティング部 部長 井上直樹氏
SAS Institute Japan株式会社 ソリューションコンサルティング第一本部
Customer Intelligenceグループ マネージャー 原島淳氏
同 マネージャー 望月美由紀氏

 井上大輔氏(以下、井上(大))は、マーケティング部や経営戦略部などを担当する役員の補佐として、特にマーケティング部の業務推進に携わっている。経営戦略部では、販促施策やシステム開発投資などの資源配分、事業計画の策定、全行戦略の企画やPDCAを担当している。井上直樹氏(以下、井上(直))は、マーケティング部部長を務め、同行のマーケティング活動を統括するほか、情報基盤システムの活用企画や運営管理も担当する。

マーケティングで勝つために、分析システムを刷新

原島:御行では、昨年、弊社のマーケティング分析ソリューションSAS(R) Marketing Automationをご採用いただき、新たな顧客分析システムを実現されています。まず、こちらの目的からお伺いさせてください。

井上(大):以前からデータの活用や分析は行っていましたが、今後、マーケティングで勝ち残っていくためには、分析を組織的な取組みとして位置付け、高度化していく必要があると考えていました。また、お客様お一人おひとりを理解し、精緻なマーケティングを実践するためには、分析システムやDWHの整備も必須と考えていました。そこで、私と井上(直)が主体となって具体的な方向性を検討していったのです。

原島:全社的な分析システムを整備して、実際に成果を挙げることは、多くの企業にとって共通の課題です。御行では、1年弱という期間で新システムの構築まで完了し、その活用も進んでいると聞いています。難度の高いプロジェクトだったと思いますが、成功の秘訣はどこにあったのでしょうか?

井上(大):進め方としては、経営戦略部が全体を取りまとめて、会社としての方向性を決め、投資対効果を整理しながらロードマップを策定していきました。システム構築ですから、それを実際の「ものづくり」に落とす必要があります。ここでは、データ分析に精通したマーケティング部の井上(直)、そして、システム開発部や他の部門から既存システムやデータに詳しいメンバーにも参画してもらったことが大きいと考えています。

井上(直):マーケティング部がハブになって、営業部門をはじめとしたユーザー部門の要望を整理していきました。次に、ユーザー部門からの要望に応えるために、マーケティング部がそれをどのような方法で実現させるかなど、具体的な道筋を設計する必要がありました。どのデータを使ってどう分析するか、そのための適切なデータソースは何か、といったことです。この部分ではシステム部門とも課題意識を共有し、手厚いサポートがあったことで、ずいぶん迅速に進めることができました。

望月:私はコンサルタントとして同プロジェクトに参画させていただいたのですが、経営戦略、マーケティング、システムの各部門の連携が本当にスムーズでした。大規模なプロジェクトであるにも関わらず、課題検討のときなども意思決定が非常に迅速でした。

井上(大):プロジェクトに先行して、これまでの分析環境をよりよくするためにどうすればいいのか、数名のメンバーが課題意識を持ち、議論していました。このことが、今回の要件定義のインプットにも活かされました。

望月:そうですね。さらに、システム構築と並行して、分析にかかわる人材の育成や組織の検討を進めておられた点も、新システムのリリース直後からスムーズに成果が出ていることにつながっていると思います。

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責任を持たせることで、分析担当者を育成できた

望月:既に御行では、10人以上の方が分析を使いこなしておられますよね。御行で分析にかかわる方の育成がうまく進んでいる理由は、どこにあるとお考えでしょうか。

井上(大):各メンバーのビジネスゴールを明確にして、責任を持たせたことが大きな要因だと考えています。そして、マーケティングをもっと高度化したいとか、収益を上げたいとか、事業上のゴールに貢献したいとか、メンバーのモチベーションが高かったこともあります。高度な分析を使って、何かしら目的に貢献しようという意識が高かったのです。もし、ゴールや目的が不明確で、ただ分析ツールを使って何かやってみようといった話だと、こうはならなかったでしょうね。

原島:なるほど。それぞれの分析担当者が明確な目的をもって、分析にあたられたから、ということですね。皆さん、もともとデータベースや分析の知識をお持ちだったのですか?

井上(直):いえ、突出した経験や知識を持っている者はいなかったですね。ただ、井上(大)が申した通り、“これを実現したい”という目標意識が高い。また、以前の環境では実現や達成に苦労していたことが、SASツールであれば簡単に素早く解決できる、と肌で感じてスキルを身につけていったように感じます。

分析を使って、マーケティングROIを最大化したい

望月:プロジェクトが完了してすぐ、SASの分析ツールを使いこなしておられましたよね。新システムリリース後は、どのような使い方をされていますか?

井上(大):最近では、取引データのみならず、DWHに格納したデータを総合的に扱っています。SASを使うことで統合的な分析ができ、よりよくお客様を理解することにつながっています。例えば、「お客様はWeb上でどういった情報にご関心をお持ちなのか」を分析することで、あるコンテンツがクリックされたことの意味、閲覧されたことの意味がわかってきます。それに沿ってWebサイトのKPIを新たに設定したり、当行のWebサイトを実際の店舗の窓口として機能させるためにはどういったコンテンツが必要なのか整理したりなど、今まで何となくでしか結論づけられず、時間を要していたPDCAをよりスピーディーで精度高くアクションできるようになりました。

井上(直):このような分析を通して、これは有効そうだとか、これは絶対に見逃してはいけないとか、各メンバーから施策案はたくさん出てきます。効果の大小にあわせて効果的な施策を選別、実行し、結果をフィードバックしながら、マーケティングROIを最大化していきたいと考えています。

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ミクロにお客様を捉えて、最適な提案が出来るように

原島:御行の場合、KDDIさんとの連携や、スマートフォンでのネットバンキングが強みであると思います。この領域ならではのマーケティング分析としては、どのようなことを実施されているでしょうか?

井上(大):まず、当行のビジネスモデルは、auをご利用される全てのお客様の口座開設を目指すというものです。一般的には、お客様がバンキング・サービスを選択される際は、預貯金や資産運用など明確なニーズをお持ちであることが多いので、そこにいかにアプローチするかを考えます。他方、auをご利用のお客様を対象にした場合、銀行取引について明確な目的がある方ばかりではありません。多様なお客様お一人おひとりに着実にお取り引きしていただけるよう、どのようにフォローアップしていくかが大切です。そのためには、お客様お一人おひとり、つまり細分化したミクロなセグメントの一つひとつに対して、分析で得られた多くのアイデアの中から最適なものを選択してご提案することで、当行とお客様の関係性を向上させ、当行とのお付き合いに満足いただくことが必要だと考えています。

原島:ミクロに、お客様お一人おひとりを理解するということは、その背景となるデータが豊富にあるということでしょうか?

井上(大):いえ、そうは思っていません。当行のお客様お一人おひとりが保有されている、全ての金融資産に関するデータを保有しているわけではないからです。例えば、お客様が100万円をお持ちであったとしても、必ずしも全て当行に預けていただけるわけではありません。つまり、お客様はお取引を分散させている。ですから、お客様が当行で行われているお取引だけを見ても、本当のお客様像はわからないのです。

 また、特に重要だと考えているのは、お客様に何らかのニーズが発生していると思われるような予兆を、正確かつタイムリーに把握することです。金融商品の特性でもありますが、小売など他の業種と比べ、取引頻度が低いので、ニーズやその予兆を適切に捉えて、ご提案のタイミングを逃さないことが重要なのです。

原島:なるほど。ニーズや予兆を捉えたら、次は実際にお客様へのアプローチとなりますが、御行では、その手段はスマートフォンになるでしょうか。

井上(大):そうですね、スマートフォンを通じたコミュニケーションがメインです。銀行の商品は似通っていますから、当行では、お客様との関係性やその頻度をとても重視しています。手のひらにあるデバイスを通じてご提供するユーザーエクスペリエンスを、さらに良いものにしていきたいですね。

効果を出すために、マーケティングが経営と営業を「つなぐ」

原島:ところで、先ほどのお話のように、分析をアクションにつなげて効果を出すためには、組織間の調整も大切になってくるかと思います。工夫されている点はありますか?

井上(大):経営戦略部門の「マクロ」の数字と、営業部門の「ミクロ」の数字を連携することは重要な課題の一つです。経営戦略部門は、銀行全体としての収益など広い視野での舵取りが役割です。一方、営業部門はもっと細かくて、施策や商品ごとに一つひとつの成果を最大化することが役割です。経営戦略は営業の現場を知る必要があるし、営業の数字は足しあわせて経営戦略の数字にならないといけない。この2つを「つなぐ」役割をマーケティング部が担っています。マーケティングが経営戦略と営業の両方の視点や課題を理解して、分析を軸にそれぞれを支援していく。これが当行では、うまく機能しはじめていますね。

井上(直):我々マーケティング部では、部門間で連携するために、組織横断で議論する場を作るようにしています。分析から様々な施策案が出てきたら、営業部門に任せるのではなく、自分たちが成果を出すつもりで、営業部門とコミュニケーションしながら進めていきます。もちろん、結果も見ています。営業部門の施策や問題意識を共有しているわけです。

井上(大):加えて、マーケティング部は、経営陣や経営戦略部にも近い位置にいます。上から下まで縦横無尽に動いているというイメージですね。経営課題を理解し、経営の仮説を数字で検証するという流れができています。また、営業との個々の施策を進めるだけでなく、それが集合体としてどんな数字になるかを経営にフィードバックしています。マーケティングが「分析をもって経営と営業をつなぐ」こと、これは我々が目指しているところでもあります。

望月:プロジェクトで一緒に活動させていただいて、部門間で積極的にコミュニケーションが行われている、風通しのいい関係だと感じました。御行では、マーケティングが中心になって部門横断的に動いておられる様子が伺えます。データ分析活用の有用性が全社的に共通認知されていて、理想的なマーケティング環境ですね。最後に、SASに対してのご要望などお聞かせいただけるでしょうか。

井上(大):ツールとしての使い勝手、拡張性、最終的には効果につながるという意味で、良いものを選んだと思っています。これまでも一緒にシステムを作ってきましたが、これからは仮説検証面でのパートナーとして、我々を牽引してくれるようなサポートを期待しています。

 というのも、auをご利用される全てのお客様に口座開設いただくこと、ネット専業であること、銀行という業態であること、これら3つの要素をあわせ持つという当行の特徴は、他のどの企業にもないものです。多種多様な知見とセンスが必要になってくるのですが、全てわかる行員はまだ多くありませんから。

望月:はい。弊社は銀行や流通小売など、様々な業界のお客様をご支援いたしております。それらの知見や経験を活かし、単なる分析ツールの導入や分析支援だけではない、お客様の目線に立った現実的なご提案を通じて、今後もサポートさせていただければと思います。今回は、ありがとうございました。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2015/10/26 10:00 https://markezine.jp/article/detail/22975