“企業が考えるカスタマージャーニー”は現実と異なる
ここ10年の間に劇的に変化したビジネス環境として、「顧客接点の多様化」がある。スマートフォンの登場により、空き時間や移動時間に気軽にデジタルツールに触れる機会が増えた。ツイッターやFacebookなどソーシャルメディアの普及や、コミュニケーションアプリ・LINEの浸透により、絵(スタンプ)や文字を使ったメールと異なる手軽なコミュニケーション手段が浸透した。
当然企業も、こうした新しいチャネルを通じて顧客とのつながりを求める。特に消費財のBtoCビジネスの場合、BtoBと異なり企業が顧客一人ひとりと直にコミュニケーションを取ることは少ないため、デジタルチャネルは顧客とつながる良い機会となる。またソーシャルメディアで自社商品が話題になれば、それだけ多くの消費者を惹きつけることになり、販売機会が増大する。
しかし、こうした変化を頭で理解していても、それを実際のマーケティングで活用しようとすると戸惑うことが多いのが現実ではないだろうか。例えば「顧客との接点は増やしているのに、売上増につながらない」「商品を認知してもらえない」といった具合だ。
こうした状況について、「企業が描いているカスタマージャーニーと、現実のカスタマージャーニーに大きな溝があるのではないか」と分析するのが、セールスフォース・ドットコムの加藤希尊(かとう みこと)氏だ。
企業は、広告などを通じて顧客に商品を「認知」してもらい、そのあと「検討」期間を経て、「購入」するという一直線のカスタマージャーニーを描きがちだ。だが実際は、消費者がどこで商品・サービスを認知し、どんなシーンで比較検討してどのチャネルで購入するかは、星の数ほどパターンがある。ソーシャルメディアで誰かが絶賛していた商品を見たのかもしれないし、その商品を検討する際にレビューサイトや価格サイトを訪問することもあるだろう。購入するタイミングも、別に店舗に行く必要はなく、通勤中の電車の中で「購入」ボタンを押すかもしれないし、ランチを食べながら購入するかもしれない。つまり、すべての選択肢は顧客側にあるわけだ。
こうした多様なカスタマージャーニーがあることを認識し、カスタマージャーニーを考えることは、「顧客視点でビジネスを考えることにつながります」と加藤氏はいう。つまりそれは「モノではなく、顧客視点で競争力を付ける」ということ。これが今の企業に求められているのだという。
BtoCとBtoBにおけるカスタマージャーニーの違い
とはいえ、カスタマージャーニーを考えてマーケティングに取り組むとなると、マーケターには途方もない負荷がかかる。その原因の一つとなるのが、前述したチャネルの多様化だ。特にBtoCの場合、商品によっては数万~数十万人、時には数百万人の顧客を抱えるケースもある。それを数人のマーケターで対応しようとすれば、マーケター1人につき数万人以上の顧客を抱えることになる。
そこでBtoCビジネスが注目しているのが、マーケティングオートメーション(以下、MA)だ。カスタマージャーニーという文脈でMAを捉え、自動化できるポイントを自動化することでマーケターの負荷を軽減しながら効果的な施策が実現できる。
これまでMAといえば、BtoBマーケティング分野で語られることが多かった。BtoBの場合、マーケターの目的は「大量の見込み顧客の中から、ホットリードを獲得して営業に渡すこと」となる。顧客として捉える対象も、個人ではなく担当者「個人」と「個人+企業」となる。大量の見込み顧客を絞り込んでいくというファネルの考え方で、その絞り込みにおいてスコアリングを行い、ホットリードを抽出する。これがBtoBにおけるカスタマージャーニーの一般的な形だ。
これに対しBtoCは、まず顧客に認知してもらうことから始まり、そこで実際に買ってもらって、顧客と適切なコミュニケーションを取り、自社のファンになってもらった後にロイヤル顧客として育成し、口コミなどにつなげていく。対象が「個人」になる上、接するチャネルもさまざまだ。メールやLINE、Web、紙媒体などもある。
BtoCのMAは、カスタマージャーニーに沿った顧客との接点の中で、重要なポイントを自動化すること。これらの接点の中で、自動化できる部分は必ずある。そこの部分でMAを活用し、効果的な施策を打つことで顧客視点の競争力を確立できるわけだ。
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