アドフラウド問題を、あなたは認識していますか?
本連載のテーマであるアドフラウド(Ad Fraud/広告詐欺)。欧米ではずっと前から問題視されていましたが、Google Trendで確認できるほど大きな問題になったのは2011年前後のことです。アドフラウドを日本語に直訳すると「広告不正」「広告詐欺」であり、なかなか刺激的なワードです。言葉だけを聞くと非常に誤解を招くワードではありますが、本連載ではなぜ今アドフラウドについて見識を深めないといけないのか、しっかりと問題を認識した上でどうすれば良いのかを解説していきます。連載の第一回目では、アドフラウドを取り巻く問題の背景と、なぜ日本では話題にならないか、どのような対策があるかについて解説していきます。
Viewable Impression
まずはアドフラウドの問題を語る前に、「Viewable Impression」について整理していきましょう。今から5年ほど前、欧米を中心にすでに浮上していた問題です。「Viewable Impression」とは、Media Rating Council(MRC)と 米ネット広告団体Interactive Advertising Bureau(IAB)によると、「広告の50%以上の面積が画面に1秒以上露出するインプレッション」と定義されています。米Googleが2014年12月6日、このViewable Impressionについて、「ディスプレイ広告の全インプレッションの56.1%はViewable Impressionになっていない」との調査結果(PDF)を発表したのは、広告業界に大きな衝撃を与えました。これにより、媒体社やアドプラットフォーム事業者は表示されていなかった広告に対しても、そうとは知らずに課金していたことが明らかになったのです。ここから、広告がきちんと表示されたときに課金しよう、といった考え方が生まれ、主流になろうとしています。
アドフラウド(Ad Fraud/広告詐欺)
次いで登場するのが、アドフラウド問題です。広告が表示されたことは確認できても、果たしてその広告を見ているのは、人(ユーザー)なのかコンピューター(ボット)なのかわからない。また仮に人であったとしてもデモグラフィック属性など、どこまで精度が高いのか、といった議論が生じるようになりました。極端な話ですが、とあるメディアが月間1億PVと公表していても、そのPV自体を全て人が見ているものなのか、わからないわけです。Cookieだけで「人が見ている」と見做すのは危ないのではないか、といった問題意識が生まれたのです。
アドフラウド問題の顕在化を阻む、日本特有の“獲得”を重要視する指標づくり
さて、ここからは日本の話をしていきましょう。Googleが2015年9月30日、AdWordsのディスプレイ広告のCPM入札を、vCPM(viewable CPM/広告が画面上に表示された場合にのみ課金する方式)に移行すると発表しました。広告主が徐々にViewable Impressionの問題を懸念し始めたことから、広告取引の健全化を目的に、vCPMを導入したのだと考えられます。
それにしても、欧米では早くから顕在化していたこの問題が、なぜ日本では議論されづらい土壌があるのでしょうか。それには日本特有ともいえる、広告主側の「広告効果の見方」が関係しています。たとえば、100万円を広告予算として投資したとき「何件の成果(申込など)に結びついたか」が最も重要な指標とされるケースは非常に多いからだと推測しています。
広告としてはViewable Impressionが多く含まれたものの獲得につながらなかった広告A、Viewable Impressionがあまり含まれなかったものの獲得につながった広告Bの2種類があると、後者が「効果あり」と判断されます。繰り返しになりますが、獲得件数(最終的な成果)が指標となるため、何回表示されたか、見られたかといったものはあくまで「中間指標」で、重要視されていません。実質的なメリットは当然あるのですが、この「中間指標」にこそ日本と海外の考え方の大きな違いを生まれさせているのです。