少量のインプットだけでレコメンドが可能に
斎藤氏は前段の悩みに対し、「KIBITは最初にインプットするデータが少なくても、かなり精緻なデータ分析ができます」と語る。たとえば弁護士が必要とする訴訟メールの場合、最初に50から100件ほどのメールを「必要/不必要」に弁護士が仕分けて、インプットする。すると、2種類のメールの特徴をKIBITが把握し、膨大なメールデータの仕分けを代行する。結果についてフィードバックすれば、KIBITが学習し、精緻化していく。
特に、専門家ではなく一般ユーザーの好みを学ばせるマーケティング活用の場合、最初に必要なデータ量はさらに少なく済むという。「ユーザーが好む商品を3つ、4つ教えるだけで、ある程度は好みに合う商品をお勧めしてくれます。インプット量が少なければ、すぐ実装可能になることもメリットですね」と斎藤氏は解説する。
では、マーケティング領域で具体的にどのような活用が進んでいるのだろうか? 斎藤氏は、デジタルキュレーション、VOC(Voice of Costomer)やCRMへの応用、そしてコミュニケーションロボット「Kibiro」の3つを挙げる。
ひとつ目のデジタルキュレーションとは、Rappaが電通国際情報サービスと協業して開発するKIBITを活用した高度なレコメンデーションエンジンを指す。ECサイトや口コミ系サイトに蓄積されているカスタマーレビューや商品説明文といったテキストデータを解析し、個々のユーザーの好みや趣味趣向を学習して、適切なレコメンドをしてくれる。
重要なのは「偶然の出会いを創出すること」
通常、ECサイトなどを訪れると、まずカテゴリを絞り込むかキーワード検索をするのが一般的だろう。そうしないと目的の情報にたどり着けないからだが、その場合は絞り込んだ外側に潜む有益な情報に出会うことは難しくなる。
「そうした形で除外されてしまう偶然の出会い、セレンディピティを生み出せるのが、KIBITの大きな価値だと思っています」と斎藤氏は語る。
「これは、自分と似た人が買っている商品や、ランキング上位の商品が推薦されるのとも違います。似た人ではない、ユーザー自身の好みや価値観を正確に反映するため、かなりマッチング性が高い情報を提案できます」(斎藤氏)
KIBITを用いたデジタルキュレーションは、ユーザーには偶然の出会いを生み出す一方、ECサイトなどの事業者には複数のメリットがある。たとえば在庫が動きにくい、ロングテールのテール側の商品の購買機会につながったり、前述のようにカテゴリ絞り込みに左右されないレコメンドによってカテゴリを超えたクロスセルが実現したりする。また、斎藤氏は人工知能や機械学習は、継続することのメリットが大きいと解説する。
「使えば使うほど自分の好みを覚えてレコメンドの精度も上がるため、ユーザーには使い続ける動機になります。結果的にリテンションの効果も期待できます」(斎藤氏)