パフォーマンスを重視しつつ、目先のCPAに囚われない運用を
MarkeZine編集部(以下、MZ):GMOインターネットさんが展開する「お名前.com」は、“.com .net .jp”などの主要ドメインから“.tokyo .xyz .click”といった新ドメインまで、500種類以上のドメインを取得できる国内最大級のドメイン登録サービスとして、数多くのユーザーを抱えています。近年、マーケティングの方針を大きく変え、DSPや3PASなどのアドテクノロジーを積極的に活用して効率化を図られていると伺っています。その背景にある、事業的な変化や経緯、施策の目的などについてお話しいただけますか。
桐原:「お名前.com」は1999年にサービスを開始し、最初は企業のIT・マーケティング担当者をメインターゲットとして事業を展開してきました。そのため紙媒体や純広告によるブランディングに重点を置いた施策を展開していました。しかし、その後、様々な競合の登場や個人を含むライトユーザーの増加を受けて、2009年頃から戦略的に低単価での顧客獲得路線にシフトし、広告出稿方針もDSPなどのアドテクノロジーを活用したものに変えました。
MZ:その際、マーケティング施策における目標は変わりましたか。たとえばKPIなど、具体的には何を施策の成果指標とされてこられたのでしょうか。
桐原:「絶対顧客獲得数」ですね。そこは当初から今日まで、基本的には変わっていません。ただ、広告出稿方針を変更した当初は、コアターゲットである企業のIT・マーケティング担当者を対象に、クリックを基準とした効果測定でパフォーマンスを判断してマーケティングを行ってきたのですが、2012年の秋頃から3PASを導入し、より緻密な運用型広告の出稿へとシフトしました。
MZ:かなり早い時期から、3PASを活用されていたのですね。
桐原:はい、3PASが出初めの頃でしたが、広告の貢献度を可視化したいという目的から、私たちのグループ会社で、広告運用のパートナーであるGMO NIKKOの協力のもと導入しました。3PAS導入以前は主に直接コンバージョン(成果)につながったラストクリックを指標として運用していたのですが、やはりそれだけでは把握できる範囲が限定的で、そこに至る前に接触したかもしれない広告の影響、間接コンバージョンの貢献度を測定できないため、運用の本質的な最適化が難しいという課題を感じていました。ラストクリックでの評価ももちろん大事ですが、広告運用を最適化するためには、コンバージョン直前のラストクリック評価だけでなく、そのユーザーが最初に接触したインプレッションからの評価も重要だと。
当初から広告はリーチしたいユーザーへのインプレッションを確実に担保することで成果が生まれるのであり、ラストクリックベースで見える効果は限定的という認識を持っていたので、各広告媒体の総合的な効果測定をインプレッションベースで明確にしたい。そんな思いから3PASの導入に踏み切り、クリックされた広告経由でのCPA(Cost Per Acquisition/コンバージョン単価)に捕らわれない運用ができるようになりました。
熊谷:具体的には、直接コンバージョンにつながった媒体のCPAを指標とするラストクリックCPAに加えて、それ以外の有効なインプレッションの貢献度もアトリビューション分析で定量的に把握できるようになりました。例えば、以前は多くの人に見てもらえるようにブロードリーチに予算を投入するとCPAが上がってしまうため、躊躇してしまうこともありましたが、初回で接触した媒体がどれだけコンバージョンに寄与したかという分析データを活用することで、露出をコントロールしながら施策を判断できるようになりました。
MZ:3PASの導入により、接触のあった複数の媒体でのアトリビューションを把握できるようになったことが、成果向上につながったということなのですね。
熊谷:はい、直接コンバージョンだけでなく、インプレッションをベースとした間接コンバージョンの貢献度をメディア横断的に評価できるのは画期的でした。ある広告から離脱して別経路から入ったとしても、後でその広告がコンバージョンにどれだけ貢献したかがわかるわけです。さらにアトリビューションスコアを把握するだけでなく、より詳細な調整も行いました。例えば、“成果に結びつく直前のインプレッション”を重視するラストモデルより、“最初に接触したインプレッション”が大切と考えるファーストモデルの方が「お名前.com」にとっては効果的であるとわかり、それを軸にPDCAを回すことで成果が格段に上がりました。
マーケター必読!日本におけるプログラマティックの現状
リターゲティングDSPの雄であるAdRollは、マーケターを対象にグローバル規模での調査を毎年実施し、日本においてプログラマティック広告やアトリビューションへの取り組みの実際の進捗、広告成果の指標と正確な計測方法、BtoBとBtoCごとの特徴や諸外国との比較・考察をまとめたレポート『STATE OF THE INDUSTRY 2016 JAPAN』を公開しています。資料ダウンロードは無料です。ぜひこちらからご活用ください!
十数社のDSPを使い分ける「お名前.com」が選んだ真打“AdRoll”
MZ:DSPをはじめとした運用型広告においては、日々の運用を担うパートナーさんがとても重要な役割を担いますよね。
桐原:はい、とても助かっています。
熊谷:私たちも3PASを使わなければ、インプレッションの評価まで行ったDSPの運用はできなかったので、最新のテクノロジーを活用する意義は大きいと思います。さらにDSPも十数社ほど利用しているので、どうしても媒体の評価が重複します。その調整にも3PASを用いています。
MZ:DSPを複数使うのは一般的ですが、十数社とはずいぶんと多いですね。すでに数多くのDSPを活用されている中、AdRollを導入したのはどのような経緯からですか。
桐原:新しいツールやテクノロジーの活用には積極的に挑戦し、まずやってみることを優先するスタンスなので、リターゲティングに強みを持つDSPのAdRollが2015年3月に日本でサービス開始したタイミングですぐに使ってみることにしました。
熊谷:弊社はAdRollと先行販売パートナー契約を結んでおり、認知が早かったことも理由の一つです。特に当時はダイナミック クリエイティブに強みを持つ点に興味を持っていました。また、ダイナミック クリエイティブだけでなくスタティック(静的)なバナーでも実施できるということで、まずはスタティックでスタートしました。加えてグローバルなBtoB分野での実績があり、プラットフォームとしての価値が高く、とりわけFacebookなどのSNSに強い点なども魅力的でしたね。
ダイナミック クリエイティブ
ウェブサイトの閲覧履歴や来訪回数などのユーザーの行動データをもとに、最適化したコンテンツでパーソナライズドしたバナー広告を配信できる。
MZ:実際にAdRollを活用されてみて、実績はどうでしょうか。
熊谷:まずは「良い結果が得られている」という事実につきます。シンプルに良い機能を備えていると思いますね。というのは、ほどよいチューニングで結果が出せるからです。またダイナミック クリエイティブとスタティック(静的)広告も一緒に管理できるところも効率がよく便利ですね。
桐原:運用の視点で、“ほどよいチューニングで結果が出る”のはとても重要です。完全にプログラマティックなDSPだと、予算と目標だけであとはアルゴリズムにお任せなので、ニーズに応じてコントロールできないことに対してフラストレーションを感じることもありますし、設定項目が細かすぎても運用コストとパフォーマンスのバランスを取ることが難しくなります。一方、AdRollはポイントを押さえて設定すれば、あとは調整してくれるという理想的な「ちょうどよさ」が好ましいです。
AdRoll導入当初は、スモールスタートではじめましたが、現在では当初の8~9倍の予算を投下するようになりました。何に予算を投下した結果、どういった効果につながっているのかが明確になったので、確信を持って予算を投入できています。
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リーチと最適化の両方を一気通貫で実現する「AdRoll Prospecting」
MZ:一般論として、リターゲティング施策は効率が良いものの、認知させて興味や関心を呼び起こし、将来的な見込み顧客を育てるためのリーチがとれないため、見込み顧客を刈り取りきってしまうと縮小最適化の壁にぶつかるという課題があります。CPAの改善などの効率化とリーチをいかに両立しているのでしょうか。
熊谷:効率化とリーチの両立は、多くの企業が向き合っている課題でしょう。私たちはその解決策の一つとして、リーチ目的で各DSPのリターゲティング以外の配信にも予算を投下していますが、2016年1月から「AdRoll Prospecting」(アドロール プロスペクティング)を活用しています。
「AdRoll Prospecting(プロスペクティング)」
AdRollが2015年6月に発表した、新規顧客獲得を支援するサービス。オプトインした広告主は、自社のファースト・パーティ・データをAdRollのIntentMapと呼ばれるデジタルプロフィールのデータプールに出し合う。このプロファイルデータとは別にAdRollアルゴリズムが本来蓄積している多種多様な広告主のユーザーのクッキーレベルでのインテント(購入意図)シグナル情報をもとに、IntentMapから広告主の既存顧客に類似した行動パターンを持つユーザーを見つけ出し、新規顧客獲得のためのユニークなオーディエンス作成を行う。これにより、サイト訪問者に限らず、購買ファネルのより上位のユーザーにもアプローチでき、新規顧客の獲得を図ることが可能となっている。すでに3,000社以上の広告主が参加し、12億件を超えるデジタルユーザープロファイルに接続している。
熊谷:「AdRoll Prospecting」は、AdRollのユーザー企業が所有するデータを互いに出し合って利用する、いわゆるセカンド・パーティ・データの活用です。自社で所有しているファースト・パーティー・データは、信頼性は高いけれども、あまりスケールは大きくありません。そこで他社が保有する匿名のプロファイルデータを活用することで、量と質を担保しながら新規顧客へのリーチ施策を図ることが可能になるのです。
桐原:リターゲティングをはじめ、どうしてもデジタルマーケティングでPDCAを回してしていくと、CPAの追求ばかりになって縮小最適化してしまうんですよね。そこで他社の親和性の高いデータを互いに活用することで、未来の見込み顧客へのアプローチを実現します。
MZ:しかし、「AdRoll Prospecting」に参画するには、自社のデータも提供する必要がありますね。そこに抵抗はなかったんですか。
桐原:正直に言うと、抵抗感は少しありました。でも、新しい取り組みには積極的に挑戦するというスタンスの中で、GMO NIKKOとAdRollさんから真摯で細かな説明をいただくうちに、直接的なデメリットはないと理解できましたし、むしろメリットの方が大きかった。そこで、まずは利用してみようという結論に至りました。
熊谷:米国で既に一般的であるというのも後押しになりました。それなら早い段階で参加した方がメリットも早くから得られると考えたのです。
桐原:「AdRoll Prospecting」を活用することで、購買ファネルの上部から下部まで、すなわちリーチから購入のアプローチまで、1つの媒体で施策が組めています。
MZ:リーチから刈り取りの効率化まで、一気通貫で施策が打てる中で、具体的にどのようにPDCAサイクルを回されているのでしょうか。たとえば、CPA単価はどのように算出されているのですか。
桐原:基本的には、購買ファネルの階層別に判断するのではなく、「事業的に予算を投入できる単価」を基準に施策全体のCPAを算出した時に基準をクリアできているかどうかを評価しながらPDCAサイクルを回しています。もちろん、全体のCPAからそれぞれ逆算して、階層別のKPIも落とし込んでいます。
熊谷:他社は直接CPAのみで見ているケースが多いと思うのですが、「お名前.com」はマーケティング全体のコストに対して、どのくらいの見返りがあったかというのを見ている。それができるのも、前述のような3PASでの指標の共通化や、DSP「AdRoll」と「AdRoll Prospecting」と連携でリーチから見込み顧客の刈り取りまで、一気通貫化が実現できたからです。
MZ:なるほど興味深いですね。
桐原:今は効率とリーチのバランスを取れるようになったので、CPAの維持を目的にリーチ施策のボリュームを落とすことは考えなくなりましたから。むしろ、「基準値をクリアできるリーチ獲得をどうやって広げるか」に頭を使うようになりました。予算的にも、まずは入口から入ってきてくれる人をきちんと確保することを考えます。当然、見込み顧客刈り取りの効果指標もありますから、KPIはあくまでも効率的に運用できているかどうかのチェックのために活用し、細かな数字には振り回されないように気をつけています。
MZ:マーケティングの大きな枠組みを、最新のテクノロジーを活用することでしっかりと確立しているのですね。今後の展望としては、どのようなことに取り組んでいきたいですか。
桐原:潜在層に対するアクションについては、まだまだ数も質も足りていないと感じています。今後は、“結果として”プロダクトの必要性を感じてもらえる、いわばカスタマージャーニーの上流を意識したコミュニケーションを積極的に行い、より多くのお客様にサービスをご活用いただけるようなマーケティングの枠組みを確立していきたいですね。
熊谷:これまでも心がけてはいたつもりですが、私たちもそうしたストーリーを広く共有して、広告のコンバージョンだけでなく、事業全体の課題についても解決策を提案できればと思っています。チャネルやデバイス等の概念がなくなる時代が間もなく到来することを予測し、AdRollさんにはクロスデバイス対応の強化をさらに期待したいですね。
MZ:それらが実現すると、また新しい可能性が広がりますね。今回は興味深いお話を誠にありがとうございました。
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