毎日2台以上のデバイスを使っている人=41%
MarkeZine編集部(以下MZ):今、スマホの普及は当然として、ごく一般のユーザーでも “2台持ち”が珍しくなくなっています。Webとアプリをまたいだ接触などは以前から課題に挙がっていましたが、今回はYahoo! DMPとYahoo!ディスプレイアドネットワーク(以下、YDN)を活用することによって、クロスチャネル接触にどのような可能性があるかをうかがっていきます。
江川さんには、以前Yahoo! DMP をフィーチャーした際に本連載にご登場いただきました。
江川:そうですね。2014年にローンチしたYahoo! DMPは、おかげさまで着々と活用が進んでいます。
MZ:まずは簡単に、現在のユーザー環境をどう捉えているか、教えていただけますか?
江川:当社では、ユーザーのデバイス利用動向調査を実施し(※2014年9月実施)、2015年2月に「マルチスクリーン時代 デバイスのいま」という資料にまとめました。3万人強を対象とした予備調査では、毎日2台以上のデバイスを使っている人は実に41%でした。
また、スマホの活用においてWebとアプリを比較すると、アプリの接触時間が8割を占めていました。ただ、UU数でいうと、Web利用のユーザーも同じくらいだったので、一概にWebからアプリへ移行しているとはいえないと捉えています。
スマホ版トップページはインフィード広告が好調
MZ:パイの奪い合いというより、パイ自体が広がっているようなイメージですか?
矢吹:そうですね。実際、PCに比べてスマホへの広告出稿額の割合が増えてはいます。特にこの4月で企業の年度が替わり、スマホ側がさらに強くなっている傾向はあります。それには、昨年5月に行ったスマホ版トップページの全面リニューアルも関係しています。
Webもアプリもタイムライン化したことで、記事に溶け込ませて表示するインフィード広告が加わりました。この広告効果(CTRおよびCVR)がとても高く、スマホへの出稿を推進するひとつの要因になっていると思います。
ただし、PCからスマホに移行しているわけでもなく、単純にネットに接触するシーンが増えています。PCだけの時代と比べて多様化はしましたが、それだけチャンスが純増していると捉えています。このような環境においては、単一デバイスのみの広告プランニングでは立ち行かないのは確かですね。
MZ:なるほど。では、クロスデバイスによる広告効果について、どうお考えですか?
矢吹:当社の「Yahoo!マーケティングソリューション 活用レポート」にも掲載していますが、PCとスマホのクロスデバイスでの広告接触による効果は単一デバイスより高い、という事例が出てきています。
スマホで接触してそのままスマホでコンバージョンする人が40%であるのに対し、スマホからPCに移行してPCでコンバージョンする人は55%でした。こういった状況を見ても、クロスデバイス対応をしていく必要があると考えています(参考情報)。
商材によってクロスデバイスのシナリオ設計に関心
MZ:広告主の意識としては、いかがですか?
江川:まだ、具体的にスマホで接触してPCで刈り取るというシナリオを明確に描くケースは多くありません。単純にユーザーはどちらも見ているので、両方でアプローチしたほうが効果を見込めるといったところです。ただ、たとえば金融などのフォームの入力項目が多かったり、年配の方の利用が多く、コンバージョンがPCで起こりやすい商材や業種だと、先のようなシナリオ設計への関心は高いですね(参考情報)。
MZ:御社の課題感としては、どうでしょうか?
矢吹:前述のようにネット接触や機会そのものは純増していても、データ自体がフラグメントになってしまっている状況はあります。そこを一本の線でつないでターゲティングし、結果を計測することに今まさに注力しています。
MZ:今は、クロスデバイス=PCとスマートデバイスになりますが、今後IoTやスマートテレビなどが広がると、広告配信可能なスクリーンがますます増加します。こうした状況下では、さらにクロスデバイス接触に期待がかかりますね。
江川:そうですね。また、新しい仕組みやデバイスだけでなく、既存のCRMを参照すれば、リテンションにも取り組めます。実際に施策に落とし込まれ、結果の検証などが進んできています。インターネットの広告出稿とCRMは部署が異なることが多く、組織的な課題もあるのですが、CRMを掛け合わせるとコンバージョン数が15倍となったり、CPAが半分になったなどの事例は増えつつあります。
Yahoo! DMPとYDNで広がるアプリ広告配信
MZ:では具体的に、Yahoo! DMPとYDNを活用してできることを教えていただけますか?
江川:これまでもYDNのみで、クロスデバイスへの配信やアプリへの配信は可能でした。ただ、広告主様のアプリ内でのユーザー行動をもとにした配信は行えていませんでした。
Yahoo! DMPを使えば、ユーザーのアプリ内での行動をもとにしたユーザーリストを広告主様から連携いただくことで、対象のユーザーに対してクロスデバイス/クロスチャネルでリテンション施策を実施することができ、さらにYDNの類似ユーザー拡張機能を活用することで、優良ユーザーになる可能性の高いユーザー層に絞って新規獲得施策を実施することも可能となります。
矢吹:補足すると、これまでは、ユーザーが複数のデバイスを使い、またスマホでもWebとアプリを行き来する中で、単一デバイスの情報だけではそのユーザーをつかみきれないのが大きな課題でした。
それを今回、たとえばアプリに関しても広告識別子(IDFA/Advertising IDなど)をYahoo! DMPに組み込むことで、それをトリガーにPCもスマホもアプリもすべての情報を統合してユーザーを捉えることがまず可能になります。その上でYDNを運用することで、ユーザーを点ではなく面で捉えたターゲティングができる。それが非常に大きなメリットです。
休眠顧客の掘り起こしはニーズが高い
MZ:加えて、先ほど江川さんが言われたようなオーディエンス拡張ができると。
矢吹:ええ。YDNはインターネットの広告プラットフォームなので、基本的にオンラインの行動データから類似拡張することはできます。それに加えて、ハッシュ化したメールアドレスや広告識別子(IDFA/Advertising IDなど)を活用することで、休眠顧客の掘り起こしや、過去の購入ユーザーから類似ユーザーを特定し配信するなどが可能になります。
江川:休眠顧客の掘り起こしには、特にアプリのパブリッシャー様やベンダー様がかなり意欲的です。今まさにYahoo! DMPと効果計測系のツールのつなぎ込みを積極的に行っており、これからYDNでリテンション施策を実施していこうという段階です。
MZ:CRMが有する情報を参照できると、クッキーよりもずっと特定的な訴求が可能になりますね。実例などはありますか?
江川:たとえば全日本空輸(ANA)様が、自社保有のIDベースでの購買履歴などの分析と、クッキーベースの最新の行動データを掛け合わせて、お盆や年末年始しか飛行機を利用しない人にタイミングを計った広告配信を行い、大きな成果を上げています(参考情報)。こうした訴求は、クッキーベースだけだとなかなかできなかったので、Yahoo! DMPでターゲティングしてYDNを運用する好例だと思います。
膨大なデータを活かせるヤフーならではの強みを発揮
MZ:まさに、今までそれぞれ点で訴求していたのがつながり、面でユーザーを捉えられるようになる印象です。Yahoo! DMPとYDNの活用で、見込みの高いアクイジションとリテンションが同時に実現できる。これは、膨大なデータを保有するヤフーならではの展開ですね。
矢吹:そうですね、我々ならではの強みを活かした仕組みだと思います。
江川:Yahoo! DMPはデータを蓄積する箱でもあるので、Yahoo! DMPと連携しておけば、たとえばYDNでキャンペーン運用開始後に調整したい場合、過去のデータをもとに再設計することも容易です。
MZ:では、今後の展望と、MarkeZine読者へのメッセージをお聞かせいただけますか?
矢吹: 2014年にYahoo! DMPを立ち上げたときから、近いうちにYDNとどういう形で連携すればいいかは議論してきましたが、まだ現状は第一弾と考えています。これから段階的に、連携できる範囲を広げる方向で検討しています。レポーティングや計測系の強化を通して、データの可視化にも注力し、柔軟なクロスデバイスマーケティングのサポートをしていきますので、ぜひご期待ください。
江川:デバイス横断的に動くユーザーを、ようやく面で把握できるようになりましたが、ターゲットをしっかり定めて、その人たちに響く施策を展開するための前提が整っただけとも言えます。
まさにこれから、そんな精度の高いコミュニケーションのパターンを増やし、クロスデバイスでのシナリオ設計の定石を探りたいですね。同時に、マーケターの方々の要望が強い機能やツールを拡充していければと思います。