テレビ放送の寿命
このような勢いが後押ししてか、「テレビ放送の寿命はあと10年から20年ぐらいだ」と、NetflixのCEOであるReed Hastings氏は発言している。
「Hastings gives linear TV - broadcast or cable - a 20 year expiration date as Internet video has an “astounding” amount of innovation.」
(Media Convention in Berlin 2015, re:publica15)
「linear TV」とは、通常のテレビ放送のことだ。なぜ「linear」(直線的)なのか?それは、テレビ局の編成が決めた時間で一方的に流されて、そして、巻き戻したりできないからだ。「a 20 year expiration date」は、「20年の賞味期限」という意味。これは、2015年の発言なので、2035年が賞味期限ということになる。また、最近では、10年から20年ぐらいと発言しているようで、2025~2035年がテレビ放送の賞味期限ということになる。
テレビ放送離れを象徴する事態として、アメリカのテレビ受信機市場で第2位のVIZIOがこの春、放送チューナーを内蔵しないテレビを発売してきた。このテレビは「Google Cast Built-In」となっていて、初めからOTTの映像コンテンツなどを楽しむことを第一義としていて、テレビ放送を見ることはできないテレビだ。テレビ放送を受信したい場合はオプションとして放送チューナーを購入する必要があるようだ。
このような状況を見ていると、「a 20 year expiration date(放送は20年の賞味期限)」という話は、アメリカにおいては、現実味があるのかもしれない。では、日本におけるテレビの結線率は20%程度と言われているが、日本においてはどうなのだろうか。
2020年にはモバイルも4K・8Kに対応か
日本では少々異なる動きがあるようだ。というのは、2020年に「東京オリンピック・パラリンピック」が開催されるからだ。独自に4K・8Kのことを調べていたら、2020年にはモバイルも4K・8Kに対応してくることがわかってきた。5Gモバイル(第5世代移動通信システム)だ。
先日、NTTドコモとNokia(ノキア)は2016年5月24日、共同実施した5G(第5世代移動通信)技術検証実験で、8K映像のリアルタイム無線伝送に成功したと発表された。「東京オリンピック・パラリンピック」で、世界に先駆けて5Gモバイルを実現しようと、政府も学会も産業界も躍起になっている様子が見て取れる。
もし、5Gモバイルが2020年までに、4K・8K映像のリアルタイム無線伝送の実用化に成功し、総務省の4K・8Kロードマップ通りにすべてが実現するとすれば、衛星放送、有線のケーブルテレビ、IPTVなど有線のインターネットTV、無線の5GモバイルのインターネットTVは、すべて4K・8Kに対応することになる。そして、地上デジタルテレビ放送だけが、2Kのまま、取り残される感じだ。
また5Gモバイルが実現すると、VIZIOの放送チューナー無しのテレビのように、地上デジタルテレビ放送のチューナー無しのテレビ受信機に5Gモバイルで4K・8K映像を伝送することができようになるかもしれない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、5Gモバイルで4K・8Kの映像を放送チューナー無しのテレビで見ているかもしれないのだ。こうなってくると、2K映像しか流せない地上デジタルテレビ放送は大丈夫なのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
放送は何のためにあるのか
放送法「第三章 日本放送協会」の第十五条では、放送の目的を以下のように規定している。これは、日本放送協会(NHK)の目的であるが、ここにある「あまねく日本全国において受信できるように」という点については、いわゆる民放テレビも同様らしい。
(目的)
第十五条 協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。
これまで仕事でお付き合いのあったテレビ局の人々からは、放送と通信(あるいは、インターネット)の違いとして、「あまねく日本全国において受信できる」サービスを提供しているのが放送の特徴であり、インターネットのようにインターネットに接続できる人にしか提供できないサービスとは異なるという話を聞かされてきた。
日本全国であまねく4K・8K映像を5Gモバイルで享受できるようになるとすれば、日本放送協会(あるいは、民放テレビの)の目的である「あまねく日本全国において受信できるように」豊かで良い番組を提供する役割は、AbemaTVなどのインターネットTVでも担えることになるのではないか。そして、地上デジタルテレビ放送よりも高精細で綺麗な映像を5Gモバイルで流せるようになってしまうと、2Kしか流せない地上デジタルテレビ放送の存在意義がますます不明瞭になってくる。
また、通信(あるいは、インターネット)に比較して放送がすぐれている点として、不特定多数の人々が同時にリアルタイムに同じコンテンツを受信できることが挙げられる。たとえば、1億2,000万人が同時に集中して同じ動画を鑑賞するとしたら、おそらく、その動画コンテンツを提供するサーバーがその1億2,000万人からのアクセス負荷に耐用できず、ダウンしてしまうことが想定される。放送の場合には、そのようなことは起こらないという話だ。
もちろん、GoogleやYahoo! Japan、あるいは、YouTubeなどのサービスには大量のアクセスが毎日あるにもかかわらず、アクセスが集中してダウンしたというニュースは最近ではほとんど聞かない。大量のアクセスが発生した場合に、それを分散処理する技術、あるいは、ネットワークやサーバーの高負荷への耐用性や堅牢性も年々アップしているのは間違いない。