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競争優位だけではもう売れない!「マーケティングセオリー」のワナ

まだ「消費者は商品を買いたい」と思っているの? 「消費者変化」の本質を見定め、リーチ思考から脱却を


 本連載では、「モノが売れない時代」に市場と格闘するマーケターが陥りがちなワナと、そこから脱出するためのいくつかのルールを示します。1回目のテーマは「マーケティングは変われているのか?」。「モノが売れなくなった時代」にも関わらず、日本のマーケティングは「モノが売れていた時代」の方法論から、本質的には進化できていないのではという問題提起です。

「マス・マーケティング」に囚われ続ける日本のマーケター

 日本では「有名タレント&大量のTVCM」で商品をヒットさせるマス・マーケティング全盛の時代が長く続いてきました。今では、「マス・マーケティングはもう終わった」とみんな口を揃えて言いますが、本当にマス・マーケティング時代の方法論から進化できているのでしょうか?

 オリジナリティーが曖昧な商品を、タレントのネームバリューに頼ったTVCMの大量投下で一生懸命売ろうとする、まさに「マス・マーケティング」そのものの手法は、今でもあちこちで見られます。ではこの現状は、日本のマーケターが進化を嫌がっている・怠けていることを意味するのでしょうか。

 私はそうは思いません。マーケティング業界の人間として、私は日々、さまざまな企業のマーケターの方とお会いします。そして感じているのは、モノが売れなくなったと言われる現代でも、日本のマーケターはその状態に甘んじず、試行錯誤しながら、あらゆる“手法”にトライアルしているということです。

 “顧客の声を聞け”ということであれば「ソーシャルリスニング」を試し、「コ・クリエーション」という形で消費者と一緒に商品開発をしたり、消費者のマスメディアとの接触時間減少に対しては「WEB動画」制作に積極的にトライアルしたり、企業の中に情報を集積していく「コンテンツマーケティング」にトライアルしたり。

 「良い“手法”があれば何でも試してみたい」という貪欲な姿勢には、日々感心させられることばかりです。ですが、あらゆる“手法”を試してみるものの、モノが売れないという状況への本質的な解決策はまだ見つかっていない、というのが実情ではないでしょうか。

 コンサルティングの立場から率直にいえば、昨今の動画ブームのような「短期に着手できる“手法”」にばかり注目が集まり、「売れなくなった=買わなくなった」消費者を根本から理解し直すという努力が、多くの企業でおざなりになっていると感じています。つまりマーケティングを仕掛ける側が、自身の「消費者に対する考え方」や「消費者を動かすのに有効なセオリー」を見直すことに、真正面から向き合い切れていないという印象を拭いきれません。

 こういうことを言うと、日々マーケティングの現場で、短期的な結果を求められている皆さんからは「そんな悠長なこと言っていられない!」という声が聞こえてきそうです。ただ、だからこそ「新手法に飛びついてはやめ、飛びついては……」という出口の見えない習慣から脱し、徹底して消費者の視点に立つ「カスタマーセントリック(顧客中心)」なスタンスで、自社のマーケティングを根本から考えるべき時期に来ていると思うのです。

心変わりした消費者は、「リーチ」だけでは動かない

 そもそも高度成長期~バブル時代は、「日々欲しいモノが充たされていく」という感覚がある時期でした。ですから「消費することは楽しい→どんどん消費したい」という気持ちも自然と盛り上がっていたと言えます。

 この時代に最も効果を発揮したマーケティングモデルが、AIDMA(アイドマ)モデルでした。リーチを最大化させればそのうちの何割かがそれを記憶し、さらに記憶した人の何割かが購入に行き着くというセオリーです。このモデルには、そもそも消費者には「商品を買いたい/新しい物は試したい」という欲求があるという前提が存在します。

 しかし時代は変わりました。世の中の様々なビジネス・マーケティング書でもすでに述べられていますが、現在、消費者の中にそもそも「モノが必要ない」という気持ちが大きくなっています。バブルの崩壊、リーマンショックといったマクロの経済動向もさることながら、バブル時期を経た日本の消費者の多くは「大抵の商品・サービスは試してみた」と感じ、さらに低成長・高齢社会を迎えたことで「将来の蓄えのために、今、ムダな消費はしたくない」という気持ちが強くなっており、それが現在の「モノが売れない」現象に結びついています。

 この状況に対して、私たちの消費者の捉え方、さらにいえばマーケティングは対応・進化できているのでしょうか。

 例えば商品開発という視点で見ると、今でもバブル時代と変わらず「カテゴリー内で、競合ブランドへの優位を獲得する」という、横並びでの技術・機能競争に囚われていると感じます。またコミュニケーションについても、その技術・機能性の優位性を伝えることが原則。そして仮に優位性がないとなると、自社で設定したブランドコンセプトに立脚する、情緒的なブランドイメージを表現した広告で差別性を図ろうとするのが大半なのではないでしょうか。

 先ほど申し上げたように、今の消費者はそもそも「モノが欲しい」とは思っていません。そのような状況の中で「競合よりもこの商品は優位/違う」といくら伝えたところで、また「インサイトとは無関係の自社のブランドコンセプト」を伝えたところで、なかなか売れにくい状況を打破できません。それが多くの企業が苦しんでいる構造でしょう。

 「うちは広告中心のコミュニケーションはやめて、ソーシャルメディアやWEB動画にもチャレンジしている」とおっしゃる方がいるかもしれません。ですが、それだけでは、やはり“新たな手法”を追い求めているだけで、本質的には一緒です。なぜならば、消費者がマスメディアに接触しなくなったからソーシャルメディア/WEB動画にシフトしたと言っても、それは新たなリーチの道を求めているだけ。

 つまり基本的には「モノが欲しい(だからリーチさえすれば売れる)」の前提のままであり「モノが欲しくない」という消費者に対応した、新たなセオリー構築には至っていないのではないでしょうか。

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この記事の著者

三宅 隆之(ミヤケ タカユキ)

 株式会社インテグレート執行役員 消費者行動アナリスト/プランニングディレクター
 大手広告会社に17年間勤務後、2008年株式会社インテグレート入社。食品、衣料品、化粧品、自動車等多くの商材に関する消費者行動分析~統合マーケティング戦略立案・実施を行い、クライアントが抱える様々な課題の解決を行う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2016/08/23 10:52 https://markezine.jp/article/detail/24849

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