人工知能の課題を解決する第一のアプローチ
高木教授は、先述した2つの課題があった中、ネットの登場で新たな手法が生まれたと解説する。
「知識と論理だけでは、現実世界を的確に表せません。そこで最近は、知識をあらかじめ蓄えて推論エンジンで答えを出すのではなく、ネット上で答えを検索するアプローチに変化しました」(高木教授)
例を挙げると、多くの対話システムは同様のアプローチを行っている。「空は何色ですか」と聞かれると、色についての質問だと判断してネットで検索。すると、「天候」「昼間」「空」など、色に関係ない情報も含めて大量の言葉が出てくるが、その中で出現頻度が最も高いもの、この場合は「空色」を回答に選ぶ。

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この方法を用いれば、人工知能が持つ欠陥はある程度解消できる。ただし、完璧に乗り越えられるわけではない。
「Googleに、『家電量販店で働いているラクダ』と入れて検索してみましょう。家電量販店ではラクダは1匹も働いていませんが、Googleでは無理矢理にでも答えを出そうとするため、採用情報のページなどが出てきてしまいます」(高木教授)
このように推論や知識を使わず、確率的に答えである可能性が高いものを検索して見つけ出すのが最近のアプローチだ。高木教授によれば、このアプローチも役に立つが、まだ人工知能の本質的な課題を解決するには至っておらず、この手法の延長線上の一つが機械学習だという。
機械学習がしている唯一のこと
注目の技術となっている機械学習だが、「すごく期待値が大きいかもしれませんけども、実は分類しかやっていません」と高木教授は釘を刺す。
例えば、機械学習の典型であるサポートベクターマシンは、過去のデータを基にして引いた識別境界面を学習しておくことで、新たに取得したデータがどちら側に属すかを瞬時に判別する。

機械学習が分類する精度は人間よりも高く、データの増加に比例して向上する。そのため、ビッグデータ基盤を構築する企業が増えるにつれて、機械学習は顧客特性や売れる商品の分類などに使われるようになっていった。
だが機械学習は、試行錯誤を伴う複雑な問題の解決ができない。「機械学習で将棋が打てるかというと打てません」と高木教授は述べる。
この点はディープラーニングも同じだ。人間の場合は常識を使って試行錯誤するが、機械学習やディープラーニングは一方通行で答えを出そうとする。
「ディープラーニングは、試行錯誤や常識が必要な複雑な判断には使えません。これが、ディープラーニングの現実です」(高木教授)

ここまで各々の人工知能の長所と短所について語ってきた高木教授は、次のメッセージとともに人工知能に関する説明を終えた。
「人間に対し反乱を起こす、映画に出てくるような人工知能と現実の人工知能には大きな乖離があります。現実は今のところ、大量のデータを線引きできるだけです。ですので、現実を正確に捉え、正しく活用する必要があります」(高木教授)
