一歩踏み込んだ理解が足りない人工知能・機械学習
人工知能とマーケティングサイエンスに関する学会で活躍する高木友博教授。同セッションの初めに前置きとして、人工知能について過剰に期待、危険視するメディアの記事が目立つようになってきたが、そうしたメディアを含めて多くの人が「人工知能、機械学習とは何か、もう一歩踏み込んだ理解に至っていない」という。そして「人工知能に対する誤解を解き、正しく利用できるように」することが本講演の目的だと述べた。
続いて高木教授は、会場に集まったマーケターに向けて「セグメンテーションとオーディエンス拡張は別のものだと思われていますが、実はほとんど同じものです」と説明し始めた。
オーディエンス拡張は、履歴データの類似度を基に拡張範囲を決める。セグメンテーションの一種であるクラスタリングも、類似度でグループ分けしてクラスタを決定する。細かな点で違いがあっても、類似度を基準に分割するところが一緒だというのだ。
以上の説明を終えると、高木教授は「マーケターが人工知能のエッセンスを理解すれば、オーディエンス拡張でもセグメンテーションでもない新しいマーケティング手法を思いつけるはず。この2種類の手法を使うだけではなく、コンピューターサイエンス側からでは思いつけない新しい方法を開発してほしいと思っています」と語り、人工知能の説明へと移っていった。
人工知能の歴史、最初の壁
一口に人工知能といっても、実はさまざまなアプローチがある。高木教授は、その中でも重要なものを人工知能の歴史に沿って解説した。
歴史上、最初の人工知能と目されるのは、次の図 が示すような“木を探索する”システムだ。
このシステムを用いた人工知能は、「チェスなどのゲームにおける最善手を導き出す」といった複雑な問題を、枝分かれしていく局面の先の先まで探索していくことで解決しようと試みる。
次に登場したのは、“プロダクションシステム”だ。このシステムでは、推論と知識を組み合わせて問題解決を図る。
例えば下の図 のように、「太郎君は熱がある」という情報が入力される。すると、推論エンジンがこの情報を知識ベース内の「熱があるときは、風邪の可能性が高い」という情報と照らし合わせ、「太郎君は、風邪の可能性が高い」という結論を導き出す。
だが、これらの人工知能には課題がある。例えば、「事業仕分けで『2番じゃだめなんですか?』っていった自民党の女性議員は?」と問われたとき、該当する女性議員は自民党ではなく民進党の所属なので該当者が見つからず、プロダクションシステムは思考停止に陥る。与えられた知識と論理でしか問題を処理できないため、人間のように「自民党じゃなくて、民進党じゃないのか」と返答できないわけだ。
また、グラウンディング問題という課題も残っている。下の図の猿がバナナを取る方法を分解して木にし、探っていくと「箱をバナナの下に置けば取れる」と論理的な正解は出せる。しかし、現実世界で「本当にバナナの下に箱を置けるスペースはあるのか」「『バナナの下』といっても、どの位置に置けば猿のジャンプが頂点に達するところでバナナに手が届くのか」といった回答を示せないのだ。