老舗マーケティング企業が教える、王道かつ汎用性の高いナレッジ
QOは1965年創業のリサーチ企業が母体だ。日本のマーケティング黎明期から60年間、マーケティングリサーチを続けてきた。現在はリサーチとプランニングを軸に「生活者価値起点のマーケティング活動」を支援している。
「派手さはないものの、王道で汎用性の高いナレッジをご紹介し、明日から皆さんにご活用いただくことを目指します」と冒頭で示したQOの恒藤氏。同セッションでは「トレンドとインサイトを捉えるメリット」「社会潮流起点のアプローチの位置づけ」「それらの再現性と汎用性を高める取り組み」の3つのポイントを解説した。

なお、同セッション内におけるトレンドとは「世の中や生活者の潮流」を指し、行動・心理・価値観の際立った変化や流れを表すものとする。またインサイトとは「生活者の満足のありか」を指し、行動や意識の変容を促す隠れた心のスイッチを指す。
「風呂キャンセル界隈」から考える社会潮流と生活者動向
まず恒藤氏は、昨年トレンドとなった「風呂キャンセル界隈」についてどう考えるか問いかけた。会場の聴講者の中で知っている人が大半であるのに対し、共感したことがあるのは半数弱、マーケティングに取り入れようとしたことがある人は0人という結果だった。
風呂キャンセル界隈をなぜ、マーケティングに取り入れようと思えないのか。要因は2つあると恒藤氏は解説。1つは、風呂キャンセル界隈は2023年~2024年にホットな話題となった、既に古い事象であること。もう1つは、あくまでいち事象に過ぎないことだ。世の中で起きている事象そのものが、マーケティング活動にそのまま活かせるわけではない。
しかし、事象の背後には社会潮流といえるトレンドや他の施策に活用できるインサイトがある。風呂キャンセル界隈を例に考えると、この事象の背後には「自分時間の不足」というトレンドと「自分のわがままを通したい」という生活者のインサイトが隠れている。
「残業が減り休養時間が増えているにもかかわらず、時間が足りないと感じる生活者が増加していることは、データからも明らかになっています。またデジタルデトックスなど、自分のペースやテリトリーを取り戻したいニーズが高まっているのです。当社では、この動向を「失われた“ME TIME”を取り戻す動き」と名付け注視しています」(恒藤氏)

「失われた“ME TIME”を取り戻す動き」という大きな生活者動向の中に、風呂キャンセル界隈という一つの事象が含まれる。他にも、あえてSNSにアクセスできない仕様の「Dumb Phone」が米国で流行していたり、ダラダラと気ままに過ごす「ゴブリンモード」がイギリスで流行語に選ばれたりといった事象も、失われた“ME TIME”に基づくものといえる。広く世の中で同時併発的に、自分のペースやテリトリーを取り戻したい生活者のニーズが高まっているのだ。