オーガニック視聴信仰という誤解

マーケターがなぜ「バズ」を重視するのか。理由の一つは、バズることによってオーガニック視聴(配信費のかからない視聴)が増えるからでしょう。
広告を視聴したAさんが、自分のFacebookに動画をシェアしてくれれば、追加の配信費をかけずにAさんの友達に広告を見てもらうことができます。オーガニック視聴は大変効率的で、それを発生させる=バズを狙うことはマーケティングの費用対効果(ROI)を高める上で当然のように思えます。
しかし、ここで忘れてはいけない事は、どれだけ多くの人に広告を見てもらえたとしても、ブランドや商品に対する態度が変容しなければマーケティングとしての意味はない、という事です。
マーケティング活動は、あくまで消費者が購入に至るためのステップを推し進めるために行われます。自社ブランド・製品の存在を知らせ、興味や好感を持ってもらうことで、購入を検討する商品群の中に自社製品を入れてもらい、特徴や優位性の理解を促して、購入の決断を後押しします。
ある動画マーケティングの先進企業には、クリエイティブとして斬新で、何百万回と再生され、著名な広告賞も受賞したにも関わらず、失敗とされている動画があるそうです。
コンテンツ性を重視した結果、数分間の動画の中で、商品が最後までまったく出てこない作りにしたため、視聴者が商品をまったく認知しませんでした。当然、商品の売れ行きは変わらず、営業部門からはマーケティング側の自己満足なのではないか、とまで言われてしまう始末になりました。
視聴獲得コストゼロ=商品が売れるではない
この話から、マーケターが陥りがちな罠が見えてきます。それは、「視聴者の獲得に費用がかからないこと」と「商品が売れること」に相関性は見られないということです。言い換えれば、「無料で視聴者を獲得できる“お得感”」に踊らされてしまっているとも言えるでしょう。
たとえ、広告費用がゼロでも商品の売上増加もゼロならば、ROIはゼロにしかなりません。さらに、配信費をケチるために、クリエイティブで話題化されやすいようなギリギリのラインを目指した結果、炎上するのであれば、これまで築いたブランドイメージを毀損することになり、実際のROIはマイナスになっている可能性は高いです。
このようなリスクを負うのであれば、はじめからバズなど狙わず、シェアされないかもしれないが、目的が明確な動画をに費用をかけて配信し、興味を持った一定数が購買につながるというスタンダードな広告施策のほうが、よっぽど効果的と言えるのではないでしょうか。
オーガニック視聴の獲得という意味でバズを目指すことは、あくまでプロモーション戦略における配信コストのコントロール手段の一つに過ぎず、マーケティングの本質的な目的にはなり得ません。これを、私は「オーガニック視聴信仰」という誤解だと考えています。