「どんな人でも使いやすい」を目指すメルカリのサービス開発

入谷:ロフトワークでは、UXではユーザーの範囲が曖昧なので、「CX=カスタマーエクスペリエンス」ということが多のですが、いずれにしてもUXの“ユーザー”とは誰を指しているとお考えですか?
伊豫:メルカリが設定する「ユーザー」とは、可能性も含めて、メルカリを使っていただけるすべてのお客様と認識しています。特徴的なのは、ターゲット設定として「ペルソナ」をおいていないことです。通常、マーケティングを行う際には、プロフィールや考え方などを整理して「ある人物像」を作り上げますよね。しかし、メルカリの場合は、基本的にすべてのスマートフォンユーザーをターゲットとして考えています。
入谷:確かにロフトワークでもマーケティングの際に、まずはコアとなるターゲットを設定し、それに即したペルソナをおくことがほとんどです。メルカリさんの広がり方を見ると、アーリーアダプターが入って徐々に成長するのではなく、いきなりマジョリティが入って一気に利用者が増えた印象があります。これは非常に特徴的ですよね。この広がり方も、ユーザーを特定しなかった点と関係があるのでしょうか?
伊豫:実は意図したわけではなくて、ふたを開けてみるとそうだったというのが実状です。とはいえ、「どんな人でも使いやすくしよう」と意識はしました。流行のUIだからという発想ではなく、iOSやAndroidなど様々なデザインフォーマットを咀嚼して、考え尽くした結果を提供したので、誰でも簡単に使えるといった評価につながっているのではないかと思います。
入谷:ペルソナがあると、それが共通言語となって共通認識が醸成されます。ですが「誰にでも」となると、人それぞれ「使いやすさ」などの認識が異なるので社内でもズレが生じそうです。
伊豫:そこはデザイナーの力量が大きかったですね。「メルカリの使いやすさはこうだ」というクリエイティブコンセプトを明確化してくれたので、そこを起点に全サービスが動くことができました。
段階的に対象を広げるマネーフォワードの戦略

入谷:マネーフォワードさんのユーザーについてはいかがですか?
細谷:前提として、マネーフォワードは「個々人のお金に対する悩みや不安が軽減し、日々の暮らしの改善や夢が実現すること」を目標に掲げています。となれば対象は老若男女全員であり、求められるUXを社内で議論した時に出てきたキーワードが「神様の視点」だったんです。神様なら利用者がログインした時点で、問題を解決できるはずですから。
入谷:なるほど、メルカリさんと同様に「全員」がターゲットなんですね。
細谷:そうです。でも、その理想にいたるまでに様々な壁がある。たとえば、サービスと銀行やクレジットカードの連携に対する心理的障壁や、ITやお金に関するリテラシーなどですね。それを解決して進もうと考えた時に、いきなり全員に向けたサービス展開は難しい。
そこで、第一のターゲットとして、アーリーアダプターである30〜40代のビジネスマンを意識しました。とはいえ、お金のプラットフォーム・お金のインフラとなることが目標ですから、正直にいえばターゲットは絞りたくない。けれど普及させるためには、限定する方が効果的。そのジレンマは今でもありますね。
入谷:確かに最初は金融機関のサービスログインに必要なパスワードを入力することに躊躇がある人もいるかと思います。それを段階的に改善して、心理的障壁を取り払いながら利用者層を広げているのですね。
細谷:はい、今も新しい機能を設けたり、UIを変更したりするたびに、どこをターゲットにするか、常に議論が起きています。いつまでもリテラシーの高い層だけを見ているだけではビジネスの広がりはない。でも、いきなり学生や主婦に訴求できるのか。少しずつ確認しながら進めている感じですね。それがようやく350万人にまで拡大してきたというところです(※編集部追記:登壇時は350万人だったが、2016年10月時点では400万人)。