「ファンという資産」が重要
こちらの記事で紹介したFullscreenですが、通常のMCN事業(8万人ものクリエイター、55億回以上の月間再生数)とオリジナルコンテンツを制作する事業以外にも、たくさんのおもしろいビジネスをしています。
その大きな一つは「Fullscreen Direct」というサービスですが、彼らが作ったものではなく、StageBlocというサービスを買収してリニューアルし、再度ローンチしたものです。StageBlocは元々音楽アーティストのファンクラブやグッズ販売を管理するシステムでしたが、Fullscreenはそのサービスをオンラインクリエイターまで広げています。

このサービスでは、クリエイターが数多くのテンプレートを使って、自分だけのサイトを作ることができます。YouTube動画の貼り付け、グッズ、イベントの告知、ファンクラブ運営など、たくさんのサービスをファンに提供することができます。
一方、Fullscreen側では一元的にすべてのクリエイターのページにアクセスするユーザーのあらゆるデータを蓄積しています。言い換えれば、嗜好性の近いファンへのレコメンドなどに活用することができ、「ファン」を管理するネットワークを構築しているということです。
つまり、どのファンがどのコンテンツを見て、何にお金を使っているのか、ファンの熱量をチャネリングし最適な情報を提供することができるのです。Fullscreen Directはまだフルローンチしていないそうで、各テンプレートや内部システムの完成度を向上させてから、トップクリエイターにも展開していくことを予定しているそうです。
グッズなどのマーチャンダイジングも、海外のMCNではかなり大きなスケールで行われています。一つの例でStudio 71というMCNの場合、彼らは自社サイトやオンデマンドサービスでグッズを販売するだけではなく、スーパーのチェーン店Targetと組んで、全国規模の販売網に対して大規模なロットでグッズを卸しています。
さらに彼らのトップコンテンツの一つである、Cyanide & Happinessというアニメーションチャンネルのカードゲームはクラウドファンディングを使ってファンから3億円以上を集めたり、YouTuber本を出したり、たくさんのおもしろい取り組みを行っていますが、どれも小さなスケールではなく、必ずミリオンドル規模のビジネスになる取り組みに特化していることです。
例
Cyanide & Happinessの3億円ファンディング
※この金額は、このプロジェクトを実現するためにファンに集めたものです。ファンに寄付額によってリワード(プレゼント)があるシステムです。
まとめ
AdSenseにより動画広告の収益、インフルエンサーを使った動画プロモーション以外にも様々なベクトルで数億規模のビジネスをしている欧米のMCNと比べ、まだまだ成長市場と言っても過言ではない日本の動画コンテンツ、インフルエンサーマーケティング市場とのギャップがお分かりになったと思います。
その中で日本のMCNのトップに立つUUUMは、海外とは異なる競争環境の元、どのように成長してきているのでしょうか? 直近の動きを見ると2016年8月に世界最大のビューティ/ファッション・インフルエンサーを抱えるアメリカのStyleHaul社をはじめとする8社の世界のMCNとの業務提携契約を締結しています。
こちらの記事の冒頭で触れた、「MCNとは?」という問いに対して、明確にこれだ、という答えを見出すのは難しいのかもしれません。確かに「YouTubeチャンネルを束ねて管理している」というYouTubeにおける仕組み的な説明は間違っていません。
一方、世界中のMCNを見ると、どれもまったく異なった領域にビジネスを拡大していて「YouTuberの会社」や「YouTuberのマネジメントプロダクション」といった日本でよく目にするフレーズは絶対に物足りないとわかります。
唯一断言できるのは先行するアメリカ市場におけるMCNが「インフルエンサー」や「プラットフォーム」よりも「コンテンツ」そのものの進化にフォーカスしている点です。「コンテンツフォーマット」に注力しているという事実は、クリエイターネットワークであったはずのMCNが「クリエイターを抱える」という概念を超えて多様なコンテンツ企業として市場拡大している、という証明と言えるのではないでしょうか(前回記事はこちらから)。