施策手法は十分にある中、問題は「課題の置き方」にある
デジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せるマーケティングの世界で、今マーケターに求められることは次の4点だと中村氏は指摘する。
- 購買者の行動変化への対応
- マーケティングROIの説明と向上
- 進化するテクノロジーへの追従
- 複雑化するマーケティングへの対応
「このように、マーケターは非常に高度な要求をされているのです。購買者の行動変化についていいますと、BtoBだとすれば、とりあえず営業を呼んで、数社から話を聞いて検討する時代から、商品やサービスの検討を事前にWebで行い、機能や性能、価格の見通しをつけてから営業を呼ぶ時代になりました。つまり、話を聞いて比べてもらえない。そもそもの引き合いが生まれないといった状況にも応えていかねばならないのです」(中村氏)
では、高度な要求に直面するマーケターが今必要としているものとは何だろうか。
「すでに世の中には解決策自体はあふれています。最も重要になるのが、“課題の置き方”なんです。大事なのは、世の中で何が流行っているのかではなく、自社の課題を特定すること。世界最先端の痛風の薬が出たとニュースになったとして、風邪の人がその薬を飲んでも意味がないのと同じです。風邪は風邪だと正しく診断することが、適切な治療の前提です」(中村氏)
思い描く「ゴール」から課題を「逆算」する
では、課題を特定し、適切な施策を展開するにはどうしたらよいだろうか。シャノンは、マーケターに必要な課題解決プロセスを、主に6つのフェーズで説明しているという。
- ビジネスのゴールを描く
- ゴールと現状とのギャップを知る
- 課題の優先度を整理する
- 課題解決施策とKPIを設定する
- 実行
- リアルタイムにKPIを測定して改善する
「ゴールは会社で既に決まっていることが多いです。たとえば、マーケットシェア20%UPなどといったゴールが社長から下達される。難しいのは、ゴールと現状のギャップを知ることです。」(中村氏)
マーケットシェアを20%上げるには、リードが必要なのか、商談こそが問題なのか、それとも受注率の改善がカギなのか。この課題設定をデータに基づいて把握することが難しい。
現状をデータで把握することができれば、次に、設定したゴールと現状とのギャップを把握し、ギャップの原因となっている課題に優先順位を付けていく。「自社にとって一番痛みが大きいことは何か」を考えて順位づけし、最優先課題を決める。
そのうえで、課題を解決するための複数の施策候補を挙げていく。挙がった候補の中から、成果が期待できるか、コストが高くつきそうか、メンバーの能力を勘案して実施がどの程度難しいかといった観点で、自社にとって最適な解決策を選定する。
このようなプロセスで適切な課題と施策を選択できても、難題は続く。
経営層・ミドルマネージャー層・現場といった立場の違いによって、マーケティングへの認識や捉え方にはズレがあるからだ。マーケティングの推進には予算が必要である以上、方針について関係者や経営層の理解を得るプロセスは必須。しかし、マーケターがこのタイミングで組織階層の断絶に直面することは少なくない。
どうして組織階層の間で断絶が起きてしまうのだろうか。そのヒントは、シャノンが毎年実施しているマーケティング調査の結果にあった。国内BtoB企業が考える課題の第一位は、3年連続で「マーケティング活動の成果が見えない」だという。
なぜ、マーケティング活動の成果は見えにくくなってしまうのだろうか。
「年々ツールは進化し、むしろ数年前よりデータは見えやすくなっているにもかかわらず、“成果“は見えない。細分化されたデータの見える化は、データとゴールが紐づいていないと、成果の見える化につながらないのです」(中村氏)
メールのCTRやソーシャルのエンゲージメント数やWeb閲覧状況がビジネスのゴールにどうつながるのか、そこを明確にしないと経営層は追加予算に納得しない。現場は自分たちが追いかけている指標とゴールのつながりが見えなければ、目の前の運用にかかりきりになり、ゴールに結びつく自発的な問題解決に取り組まないだろう。
組織階層の間で認識に齟齬が生じてしまうのは、組織活動にゴールが浸透していないからなのだ。そこでシャノンは「ゴールドリブンマーケティング」を提唱している、と中村氏は続ける。