検討~購入~消費の一連を捉える「顧客時間」の考え方
スマートフォンを触っているふとした瞬間、プッシュ通知を受け取ってクーポンを取得。近くのケンタッキーフライドチキン(以下、KFC)にそのまま来店し、商品をゲット。友人とチキンにかぶりつく様子をSNSにアップする……。かつて顧客のデータは購入の瞬間しか得られなかったが、スマートフォン(以下、スマホ)によってユーザーが常にオンラインの状態にある今、この「検討~購入~消費」の一連の行動データを把握できるようになった。
オイシックスの奥谷孝司氏は、数年前からこの一連を「顧客時間」と名付け、顧客時間を踏まえたCRMを提唱している。今回のパネルディスカッションのモデレーターを務めたオプトの伴大二郎氏は、タイトルの「今求められるCRMに起きるべき変革とは」について、「顧客時間の考え方に基づいて、行動データを最大限に活かしたCRMに変えていくことを“変革”と表した」と解説する。
まず奥谷氏は、良品計画在籍時に企画したアプリ「MUJI passport」を振り返り、「購入時点を捉えるだけではCRMにならないと考えた」と語る。購入前後のユーザー行動も可視化するのがMUJI passportであり、SNSだったという。
「いつ何が何個売れたというPOS情報ではなく、“誰が”という軸で購入の前後を踏まえてコミュニケーションを図ってこそ、リアルとネットを行き来するオムニチャネル時代の顧客の時間に入り込むことができます」(奥谷氏)。
ロイヤリティプログラムとポイントプログラムは違う
CRMの実践において、よく陥りがちなのが、ロイヤリティプログラムとポイントプログラムを混同してしまうことだ。単に購入時点のみを捉えてポイントを付与するのではなく、徐々にエンゲージメントが深まるロイヤリティプログラムを設計することが重要であり、そのために顧客時間の考え方は必須だろうと奥谷氏。「購入前にどう検討し、購入後にどう感じているか。買い物と一見関係ないデータがなければ、顧客を理解できず、ロイヤリティも高まらない」と強調する。
顧客時間の考え方自体は、実は新しいものではない。学術の世界では、2006年時点で購入とその前後を捉える概念が提唱されており、2016年には実例をレビューする論文が発表され、一連の行動がカスタマージャーニーだと表されている。
ただ、その理想像は、企業によって様々だ。たとえばオイシックスでは、通常のECと異なり、会員が週単位で買い物に訪れると既にカートに商品群が入っている。それに対する商品の足し引きの情報を、ニーズの把握に役立てている。
「サイトの回遊というより“能動的な検討”ですね。野菜はどこでも買えるので、パーソナル化や自動化を促進して、検討から購入の時間や手間を圧縮しています。僕らマーケターは、つい購入時点の情報を知りたがりますが、エンゲージメントが高ければ、購入時間も短くていい。店舗にいるだけで楽しいとか、買った商品の使い勝手が良いことのほうが大事です」(奥谷氏)