ユーザーの声を傾聴するだけではヒットは生まれない

菅野:一方、コミュニティマーケティングの別の側面として、ユーザーからもらう意見を製品に反映させるというのも非常に重要な要素だと思うんですよ。
ファンの声がただマーケティング施策に活かされるだけではなく、製品そのものをユーザーと作っていくというダイナミックな過程でもあるという考え方ですね。そうした文脈では、このフィールドテストのときにコミュニティから発せられる声をどう製品開発に反映させていったのか、具体的に教えてもらえる話はありますか?
須賀:そうですね、いろいろありました。ただフィールドテストをやったときも、たとえばユーザーの定量的な数字の分析とユーザーの声を常に両面から見ていました。
たとえばエンジニアは、人がどれくらいポケストップに行くのか、どれくらいジムに行くのか、そういった大量のデータを見ます。マーケティングチームとしてはユーザーの声を集めてそこでインサイトを見つけていく。このユーザーの声と定量的なデータを合わせたときにいろんな変更点が出てくるということがあったと思います。
菅野:『ポケモン GO』の製品開発過程でマーケティングチームが収集したユーザーの声を届けるというのは行っていたと。
須賀:そうですね、ただ最終的に決断をするのは、僕はプロダクト側だと思っているので、個人的には「マーケティング側がこう言ってるからこうしろ」というよりは「マーケティング側がヒントを与える」というほうがいい製品ができると思います。
なので、我々が「これは絶対こうしてくれ」と言うのではなく、「ユーザーはこう思っているからこういう事象が起きているよ」ということをプロダクト側に伝える、あとはプロダクト側がやりたいことをそこに合わせていく。
菅野:そういった製品開発とユーザーボイスの上手いバランスのとり方って、他の分野のブランドでも成立すると思いますか? コミュニティと対話して高速でPDCAを回しつつ、リアルタイムのフィードバックも受け止めて、製品側ともそれを共有して、という一連の製品開発と一体になるようなプロセスって。
須賀:成立すると思いますが、ただ「ユーザーがこう言っているからこうすべきだ」ではなくて、「ユーザーの声はこうである、そしてプロダクトとして実現したいことはこうである」ということのバランスをうまくとっていくことが非常に大事だと思います。
ユーザーが言ってることを、全部そのまま製品にしてもそれは流行らないというのは Appleが証明していると思うので、そこはプロダクトの意思というものを大切にしながらそこにユーザーの声を混ぜ込んでいくプロセスというのが大事なんじゃないかなと思います。
菅野:それは製品開発の議論で、マーケット・インかプロダクト・アウトかという話になりますよね。
須賀:なのでそれは二択ではないという風に思いますね。極論言うと、一択しろと言われたら僕はプロダクト・アウトのほうが正しい姿だと思っていて、ただプロダクトが本当に成し遂げたいことは何なのかということを、機能ではなく意思を実現すること、形にすることがとても大事だと思います。
菅野:それは先ほど言っていた、エンジニアの意思を大事にするとか、プロダクトの意思を大事にするという話で、ナイアンティックとしては「人を外に連れ出す」というミッションがきちんとプロダクトに落ちる、それがない限り、ユーザーのフィードバックを重視しすぎてその声をベースにプロダクトを作ろうとしてもうまくいかないよと。
須賀:それがうまくいくところも、もちろんあると思います。たとえば化粧品業界とか、特に消費財はマーケティングが非常に有効な分野だと思いますが、テクノロジーに関する分野ではあまりうまくいかないんじゃないかなと個人的には思います。