両極端な概念をうまくコントロールする“汽水マーケティング”とは
縦割り組織の文化が強い日本において、組織を横断した横のつながりを強化する発想に川上氏も同意し、これはコーポレートブランディングにおいても必要だと指摘する。グローバルで見ると、時価総額ランキングやインターブランドのブランドランキングに、ランクインする日系企業はごくわずか。世の中に提供する価値を磨き上げ、グローバルに切り込むためにも、マーケティングが全社連携を率いることは必至といえるだろう。
そして、テクノロジーが変えていく組織体制について阿部氏は「既にテクノロジーは世の中を“変えまくって”いる。同時に、様々な軸の上で物事が両極端に進んでいる」と指摘する。オンラインとオフライン、インバウンドとアウトバウンド、伝統的マーケティングとデジタルマーケティング……。当分は片方がもう片方を覆す事態にはならないと考えると、両方のバランスを取ることが重要になり、企業もそれに対応できる組織になることが求められる。この考えを阿部氏は、海水と淡水が混ざる汽水域になぞらえて「汽水マーケティング」と提示する。
「人も年をとるが、組織も年をとる。組織も新陳代謝を高めることは大前提に、特に今はこの“汽水”部分をどうマネジメントするかが勝負を分けると思う」(阿部氏)。
庭山氏も「テクノロジーの活用を見据えた組織づくりは非常に重要」と語る。たとえば最近注目を集めるABM(アカウント・ベースド・マーケティング)だが、キーアカウントに接触する手法であり「実行するには社内にデマンドセンターが構築されていることが大前提」だという。導入する仕組みを考慮して組織を構築するのは必須、と庭山氏。
失敗を恐れるな 小さく回して経験を積もう
では、ここまでの組織の議論を踏まえて、マーケティングにはどのような人材が必要なのだろうか? 庭山氏、阿部氏とも、みずからの経験から「マーケティングは学べるもの。勉強する姿勢があれば誰にでも活躍できるチャンスがある」と強調する。
阿部氏は「必須条件をいうなら、まずICTの基本的なリテラシー。データを読む力があるとなおよい。もうひとつはコミュニケーション能力」と2つを提示。「加えて、創造力、問題解決力、リーダーシップ、コラボレーション力の4つも有効。ただ、これら6つを全部備えた人は私を含めていないので、トレーニングした上で、それをしっかり発揮できるOJTを通して評価すること」と語る。
逆に注意すべきこととして、庭山氏は「実績を出せなかった営業をすぐにマーケティングに配属するのは避けたほうが良い」と指摘。たとえ本人にマーケターの資質があっても、営業部門のメンバーから「売れなかった人」と認識されている限り、いい案件を渡しても追ってもらえないからだ。
最後に会場の参加者へ、「一度も失敗しない企業はない。それなら学習曲線を速く走ってナレッジを貯めるほうが成功に近づく。ストラテジー、ストラクチャー、システムの3Sをこの順番でしっかり見直して」(庭山氏)、「“Fail”を失敗と訳してはいけない、それは経験。世の中もう予測できないので、小さく回して、査定方法を含めてFailを容認する企業になる努力をしよう」(阿部氏)と力強いメッセージが語られた。
「失敗を恐れるな、という共通点が印象的」と川上氏。テクノロジーの発展はマーケティングの試行錯誤のスピードを加速しているが、マーケティングにサイエンスとアートの両面が欠かせないことを考えると、“どういう試行をすべきか”を見出すアートの部分はやはり人間がやるしかない。「学びながら、この両輪をうまく回すことが大事」とセッションを結んだ。