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アドテック東京 2017

人がまじめに一生懸命やることを人は喜ぶ〜糸井重里氏と唐池恒二氏が語ったこと【アドテック東京2017】

無駄に見えることを端折っていく時代に

糸井:そういうことに、皆が向かっている時代なんだなと。そんなことを思いながら今までいろんなことをやってきたんですが、そう考えるとさっきの「メディアってつくるものだ」というのは、たとえば井戸をつくることもメディアをつくることなんですね。もっといえば、砂漠の井戸だって、そう。

唐池:皆が水を求めて集まってくる。

糸井:それから、町内で誰かが犬を飼ったら、「どうしてる?」だけで会話が生まれたりして、その犬を中心とするメディアができてきますよね。「これちょっと買ってきたんだよ」というだけで、そのメディアの中に新しいおもちゃというコンテンツが投入されたりする。

唐池:井戸なり、犬なりがもうメディアなんですね。

糸井:そうそう。どうしても、五大メディアの売り買いがいちばんビジネスにわかりやすいからそちらが進化してきましたが、「メディアを自分でつくる」というようなことが、ネットのおかげでやりやすくなった。そうしたら今度は、ネット上だけだとやっぱりある種のまぼろしみたいに感じられて。だからバーチャルでなく、唐池さんみたいに列車をもとの場所に戻す旅がね。

唐池:それのどこが悪いんですか。

糸井:いやいや、悪いとは言ってませんよ。今話したことが何に支えられているかというと、さっき唐池さんが「気」という言葉を使われたけど、人の思いとそれにかけた時間の掛け算がすごく大きなサービスの総体としてあるわけです。そもそも鉄道の線路を引くこと自体が、石のひとつ、枕木のひとつを持ってくるという、大変なことですから。これらは実は、ものすごく労働集約型なんです。

 ここが、今日来られている方々と逆の話をするかもしれませんが、これは人間がしなくてもいいのでは、機械に任せて人間はもっとクリエイティブなことをすればいいんじゃないかと、無駄に見えることをどんどん端折っていくような時代に、手をかけた集積であるその場所に人が集まってくる

 さらに、このサービスに私は立候補しますといって、ななつ星のスタッフになりたい人が山ほどいるんです。僕が東日本大震災の後に立ち上げた、気仙沼ニッティングという手編みのセーターの会社も同じです。50時間以上かけてセーターを編みますという人がいて、それを15万円くらい出して買ってくれる人がいる。効率とは真逆のことなんですが、でもそこに、人が今求めているものっていうのが隆起してきた感じがするんです。

自分が喜ぶ方向に手間をかける

糸井:で、最後に唐池さんの本にも載っていた、焼き鳥の話をしてもらおうかなと。

唐池:あまり本の宣伝はするなと言われていますが。「本気になって何が悪い」という本のね。

糸井:宣伝に本気になって何が悪い。唐池さんは二度、JR九州フードサービスという会社の社長に就かれているんですが、二度目に就任したら繁盛していたはずの焼き鳥屋が繁盛しなくなっておりました、というところから物語は始まります。

唐池:そしたら川上から桃がどんぶらこと…。あ、関係ないですね。最初に就任していたころは大成功だったのに、戻ってきたら大赤字で売上激減。なぜかと思ったら、以前はブロック肉を購入して店でカットして手差ししていたのに、人件費の削減のために、東南アジアから冷凍品を輸入するようになっていたんです。

 とにかく私の飲食業の哲学は、「飲食業こそメーカーだ」ということです。今、アルバイトのスタッフがレンジでチンしただけのレトルトカレーが出てくるショップが、どれほど繁盛するでしょうか。特に女性は、なかなか見かけません。でも同じカレー屋さんでもトッピングが豊富で、味付けも多様なお店には少しは行くかもしれない。もっと行くのは、自分がつくれないような手間のかかったフレンチやお寿司や天ぷらとかね、そういうところには行くと思うんです。

 つまり、いかに手間をかけるか。ななつ星でもいろんな試食を続けて料理を選びましたが、でも味の感じ方は十人十色、千差万別です。そこで私がつくったひとつの基準は、手間のかかった料理を出せる料理人を選ぼう、と。それはおいしいとかまずいとかを超えて、手間が感動を呼ぶんです。「え、ここまでしてつくっているのか」という料理は、味が多少自分の好みと違っても、必ず受け入れていただける。その手間に、お客様はお代金を払ってくれるんじゃないかなと思いますね。

 糸井さんのほぼ日だって、手間がかかっていますよねぇ。

糸井:ほぼ日はね、本当に労働集約型なんですよ。大変な思いをするだけ人を呼ぶみたいなところがあるので、その点と、ブラック産業にならないようにルールを守ることのバランスをどうとるか。つまり、働くことの中には、やはりめんどうくさいことも含めて楽しみでやっている部分が必ず混じるんですよね。それをこれからどう捉えていくかなんですけど、大事なのは「人がやることを人は喜ぶ」ということなんです。

唐池:人がまじめに一生懸命やることを、喜ぶんですよね。昔、ドリフの「8時だョ!全員集合」っていうのがありましたけど、いかりや長介がものすごく厳しくて、どうやったら受けるかと、土曜の夜8時に向けて1週間丸々リハーサルをやっていたそうなんです。お笑いという形であっても、やっぱり一生懸命手間をかけていることが伝わるんですね。

糸井:でしょ? そう思うんです。人が生まれてから仮に50万年あるとして、こんなにいろんなことが便利になったのはまだ1,000年もない、300年にさえ満たないんですよ。で、人体や感情はそれに適応していないので、その前の49万何千年でできてきた人間をどう満足させるかというのが、僕らの人から人に対する仕事とか、喜びを交換することのカギがあるんじゃないかということが、言いたかった。

唐池:だから、手間をかけてものごとをつくっていくと、それ自体がメディアになっていくんですね。手間が価値を呼び、感動をつくる。そしてそれはエネルギーだから、変化して伝わっていくと。

糸井:一気にまとめてくださってありがとうございます。あ、質問の時間がある? では。

――(会場から)手間をかけることが感動を呼ぶのは事実だと思うのですが、逆に手間をかければ必ず感動してもらえるわけではないと思います。その差分の秘密は?

糸井:これは唐池さんから答えてもらおうか。

唐池:そうだね! …って、このように手間をかけないと、なんかがっかりしますよね。まあ糸井さんもそうじゃないかと思いますが、手間のかける方向なんですよね。私の場合は、それは私の喜ぶ方向なんです。「自分マーケティング」とか「自分マーケット」と呼んでいます。自分が食べたい店、食べたい焼き鳥、乗りたい列車。

 私は鉄道会社の人間ですが、あまり鉄道好きじゃないんですよ、実は。鉄道嫌いな男がいっぱい楽しい列車をつくってきたんですけど、それは自分が、好きじゃなくてもそれでも乗りたくなるというその好みに合わせてきたんです。飲食店も同じで、自分が満足した、楽しいなと思ったことを自分の場で再現する。そのために手間をかけますね。自分の好みに向かって手間をかける。

糸井:これは僕も聞きたかったくらいの話でした。僕は割に単純で、珍しさがないものはやはり通り過ぎられちゃうと思うんです。だから、手間をかけない時代なので、まず手間をかけることが珍しい。それが「何だろう?」と思わせて、まじめにやってるとだんだん近づいてきてくれて、あ、なるほどねという共感が生まれて。珍しさと共感が両立したときに成立することが、たくさんあるんだと思いますね。

唐池:多分、質問された方ご自身が、ご自身の考えをお持ちなんですよね。

糸井:がんばりましょう。お互いにね。本気本気、本気で何が悪い。

唐池:本気になって何が悪い、です。

糸井:これは失礼しました。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/11/09 07:00 https://markezine.jp/article/detail/27398

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