奥谷孝司さんによる「マーケティング入門」連載第二回をお届けします。本シリーズでは「実務と学術の融合」をライフワークにされている奥谷さんが、今注目すべき海外のマーケティング論文をわかりやすく解説し、実際のビジネスに活かせるヒントを紹介。今回は、日本が立ち遅れているといわれる「モバイル決済」がテーマです。
現金至上主義日本
みなさん、こんにちは。少し時間が空きましたが、2回目の連載です。今回はモバイルペイメントについて考えていきたいと思います。みなさんはモバイルペイメントと聞いてどんな印象をお持ちでしょうか?
すでに使っている人にとってはとても便利なものかもしれませんし、一方で、「使いすぎが怖いし、アプリやスマートフォンと、クレジットカード番号・銀行口座を連携させるのが面倒」、「なんかお金がすぐなくなる感じ」、「お金使っている実感がなくて嫌」、「使っているけど交通系ICカード(SuicaやPASMO)を交通費以外に利用する程度」など、様々な考え方や利用頻度の方がいらっしゃると思います。
今年2月21日の日経新聞に日銀リポートをまとめた面白い記事があります。このリポートによると、日本におけるお札と小銭を合わせた現金流通高の名目国内総生産(GDP)比は2015年末時点で19.4%あるそうです。
この比率はキャッシュレス化が進むスウェーデンの約11倍。さらに2016年に国際決済銀行(BIS)が公表したデータを元に、主要国における現金の流通残高を対名目GDP比率で比較したところ、日本の19.4%はユーロ圏の約2倍(10.6%)アメリカの約2.5倍(7.9%)、英国に対しては4.4倍(3.7%)もあるのです。日本の現金流通高は異常値のようにも見えますね。
この現象は日本人のお客様の特徴なのでしょうか? 日本の小売業を俯瞰してみると、いまだに「ニコニコ現金商売」が好きな企業が多いように思います。つまり、私の私見ですが、現金利用を推奨する「小売業側の都合」が存在するようなのです。
これには、手数料の問題が大きな影響を及ぼしています。クレジットカードの利用可能店舗でも、手数料を支払いたくないので、「できれば」と現金支払いをお客様に強いているように思えます。
また、多くの企業で、新しい決済方法の導入を提案すると、「決済方法の多様化がお客様の買物のハードルを下げることはわかるが、決済手数料がボトルネックだ」となって導入を見送る、といった判断を多く耳にします。
しかし、警備会社に依頼して各店舗に現金を運ばせ、回収するという古来(!?)からあるコストには目やメスは入らない。新しいもの、利用経験のないものには大変なリスクを感じているが、昔からある必要コスト(現金の持ち運び)に関しては、「昔からそうだから」で片付けてしまっているのです。
安心、安全な国日本は、確かに現金を持ち歩くことに抵抗がない。一方、中国や欧州においては、多額の現金を持ち歩くことや、家庭内に保管することは、リスクが高くなっている。盗難・強盗のリスクもあるし、各国における通貨の信用度も低下しているからです。
消費者にしてみると、合理的に考えて「利便性」を追求するなら、モバイルペイメントや、電子マネーのほうが圧倒的に現金より優位なのです。通貨とはそもそも自身の「信用を可視化」するための手段。別に現金という触れるものである必要は、これだけ情報通信環境が整った環境ではありません。冷静に考えるとそういうことなのです。
さらに中国におけるWeChat PayやAlipayの普及率を見ても、貨幣から新しい決済手法へと移行していく中国人や外国人の先進性の方が、理にかなっているように思われます。
最近の中国人留学生と話をしていると、日本ではマメに現金を所有していないと買物もできないが、中国にいれば半年は銀行にもいかない、現金を見ないという若者もいるといいます。各国の通貨における安心度、信頼度の差も影響しているのかもしれませんが、このような地域差や国民性の差があるのが現実なのです。
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奥谷 孝司(オクタニ タカシ)
オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...
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