メールのクリエイティブをおろそかにするな
ここまで「コミュニケーションの設計法」と「メール業務の効率化」の2つの視点で、顧客との正しいメールコミュニケーションの進め方を見てきたが、コミュニケーションをより良くするには、もう1つ大切な要素がある。それが表現力だ。
吉澤氏は、「メールコミュニケーションというと、マーケティングオートメーション(MA)を使い、ユーザーの行動ログを時間軸でつむいでコミュニケーションプロセスを設計していくのが最近の流れですが、もう1つ忘れてならないことがあります。実は、メールクリエイティブが受け手に与える『感情』は非常にインパクトがあるのです」と説明する。
クリエイティブがフックとなって湧き上がるユーザーの感情に関し、いま米国で注目されているのが「Surprise + Delight」というキーワードだ。
MAがつむぐストーリーが、ユーザーのエンゲージメントを徐々に高めていく効果があるのに対し、クリエイティブは、ユーザーがメールを受け取った「瞬間」に走る「感情」を左右する。メールはユーザーのメールボックスの中でどんどん流れていくものだが、吉澤氏によると、このクリエイティブによって「もう1回メールを見ようか」という効果が生まれるそうだ。そして日本と欧米のメールでは、このクリエイティブに大きな差があるという。
「Surprise + Delight」は、メールを見た瞬間の驚き、そして喜びを意味する。米国の事例では、「Surprise + Delight」を実現する方法論として3つあるという。
メールを見た「瞬間」にインパクトを与える3つの手法
第1に、視認性を上げるデザインテクニックを使えばすぐ実現できる「ジェネラル」な手法だ。
たとえば最初にロゴで注目を集め、下にある画像で注目を抱かせ、最後に行動に結びつける「購入」ボタンなどを配置した、Inverted Pyramid Methodと呼ばれるピラミッド型のデザインがある。一方、何も語らず「Go」ボタンだけを配置するという「Less is more」(より少ないことは、より豊かなこと)という手法も、「Surprise + Delight」を促す表現方法だ。
もう少し動きがある表現でいえば、テキストをGIFアニメで動かしたり、特定部分だけにGIFアニメを挿入した「シネマグラフ」という表現もあり、これだけで十分、感情に訴えるメールを作成できる。
第2の方法として有効なのが「インタラクティブ」だ。いまCSS 3.0では、Webバナーの動きをタブやアコーディオン、スライダーなど様々に表現することができるようになっているが、同じことをメールでも実現できるようにするのがCSS 3.0の考え方だ。
もちろん、CSS 3.0については今後のWebブラウザの対応が待たれるので今後の話になるが、こうした新しい技術を使ってインタラクティブな表現をメールに盛り込み、ユーザーのエンゲージメントを高めるのも有効な手段だ。
なお吉澤氏は、「あまりにインタラクティブな表現が過剰だと、かえってユーザーの気が散るリスクもあるし、また新しい技術は『将来どうなるかわからない』というリスクも含んでいるため、十分気を付けて活用しなくてはなりません」と忠告する。
第3の表現方法として注目されているのが「ダイナミック(動的)」だ。具体的には、メールコンテンツに、ユーザーの名前や性別、今日の天気や開封したデバイスの種類など様々な変数を組み込むことで、その人に応じたOne to Oneのコミュニケーションを行うメール手法だ。「これまでテキストと画像でしか表現できなかったメールが、多様な表現力を得たことで、多くのユーザーに衝撃と喜びを与えることになります」と吉澤氏はいう。
たとえば、セール情報の告知メールの場合、通常なら「何月何日何時まで!」と強調して表現するところ、米国のあるECサイトではダイナミックメールでカウントダウンタイマーを付けることで焦燥感をあおり、行動を促すことができた。また、指でメールをなぞることで、裏にある画像を表示するスクラッチ処理を施すことで、「当たり」「外れ」のメールを送るなどの施策も可能だという。
ダイナミックメールのこうした活用例は、米国では枚挙にいとまがないそうだ。そして、このダイナミックメールを実現するツールとして注目されているのが、インテリジェントコンテンツ・プラットフォームである「Movable lnk(ムーバブル インク)」だ。
「Movable lnk」はコンテンツ、ビジネスロジック、あらゆるデータを組み合わせることで、ユーザーがメールを開封した瞬間に、どのような感情を引き出すべきかにフォーカスしてクリエイティブをデザインし、コンテンツ制作~実行~効果測定を自動で実行するという。
チーターデジタルは11月よりMovable lnkと販売代理店契約を結び、日本航空(JAL)のメールプラットフォームにMovable lnkを導入した。「たとえばメールにダイナミックに名前を差し込んだり、朝・昼・夜で表示する画像や内容を変えたりといった工夫をすることで、より親近感が増し、ユーザーのエンゲージメントが高まるという効果が期待できます」と吉澤氏は説明する。
最後に吉澤氏は、「『メールはもう古い』『ユーザーに見られなくなった』といわれますが、実はそんなことありません。実はメールは重要なチャネルだからこそ、日々進化しているのです。どうせメールを送るのであれば、つまらないものではなく、おもしろいものを送りましょう。クリエイティブで差を付けることで、よりユーザーとのエンゲージメントを強化するメールを送ることができます」と語り、講演を締めくくった。