テレビCMで築いた世界観をTwitterで身近に
「今年は年間を通してペプシの話題を提供し、“祭り”状態の1年にできればと思っていました」と語るのは、ペプシのコミュニケーションを担当するサントリー食品インターナショナルの佐野貴子氏。数年来のテレビCMで築いたブランドイメージを資産として活用し、今年はより商品を身近に感じてもらい、一人ひとりとエンゲージメントを築くことを目標に掲げていたという。
ペプシは誰もが知る商品だが、2014年にスタートした小栗旬氏が演じる桃太郎の世界観を描いたテレビCMシリーズによって、ブランドが持つ高揚感や挑戦する姿勢といったイメージを改めて印象づけている。その圧倒的なクオリティから、CMはこれまでも新作がオンエアされるたびに様々なSNSで話題になっていた。
この流れを増幅するための装置として注目したのが、Twitterだ。CMの受け皿としてではなく、もっと媒体の特性を活かした積極的な活用で、CMとの相乗効果を生み出せないか? そんな考えがチームの間で生まれたことを機に、元々CMの企画にも関わっていた読売広告社のクリエイティブディレクターである皆川壮一郎氏が、キャンペーンを統括する役割として参画。
上流でも下流でもない、CMとTwitterの活用を同時並行で企画する取り組みがスタートし、6月に桃太郎がピンチだと臨場感を高める「メッセージ入り商品サンプリング」、7月に「CM出演者募集(ティザー/本編)」、そして12月にCM公開という三段階の企画に着地した。キャンペーンはTwitterを中心にネット上で絶えず話題に上り、出演者募集にも想定を大きく上回る応募があった。
これまでにない参加型アイデアをCMチームと検討
この一連の企画は、どのように生まれたのだろうか?
「ペプシをより身近なものにしたい」というサントリーの意向を受けて、皆川氏はまずCMを手がけるクリエイティブエージェンシーのTUGBOATと相談。その中で、この映画のようなペプシ桃太郎CMに実際に出られるというアイデアが上がった。こうした消費者参加型CM企画はこれまでも例があるが、今回は2つの点にこだわったと皆川氏は語る。
ひとつは、ペプシの世界にできるだけ深く接してもらうため、参加者を単なるエキストラではなく“キャスト”として扱い、それぞれの顔が必ず映し出されるように仕上げること。その考えから50名というプレミアムな枠を設定し、「桃太郎の援軍を募集する」というストーリーを設計した。最初からTwitterで募集することを想定していたため、「#いざ鬼ヶ島」のハッシュタグを考案し、CMに入れることも決定した。
もうひとつは、商品を買った人が応募できる仕組みにしたことだ。「『ペプシを飲んで桃太郎を助けよう』というのはシンプルで強い訴求なので、これを実現したかったことと、やはり応募を通して売上に貢献できる仕組みにしたかった」と皆川氏。その上で、Twitterを応募の場に活用して、Twitter起点の盛り上げを図った。
“ペプシを胸に自撮り”をツイート
応募方法にまでこだわった背景には、ペプシの持つ情緒的価値を感じてほしいという考えがある。佐野氏は「ただ買って応募してね、に留まらない、ペプシだから提供できる壮大なスケールを体感してもらいたいという希望がありました。桃太郎の世界観に参加できるわくわくした感覚を、ペプシブランドの持つ楽しい高揚感に重ねられたら。更にはそれをみんなで分かち合えたら。それが、その後のCM撮影とその公開までの一連の体験の質を高めることになると思ったんです」と語る。
この考えを受けて、商品とともに写真を撮影して応募するという案が上がったが「正直、ハードルが上がって応募が伸びない心配もあった」と皆川氏。そこでTwitterサイドに相談したところ、「今どきの人たちは自撮りすることになんら躊躇しない」という意見があったという。
「それを聞いて、はっとしましたね。実際、自撮りのツイートに付いているハッシュタグを見てみると『何々さんとつながりたい』『少しでもいいと思ったらRT』といったものが目立ち、Twitterでちょっとした有名人になりたいという気持ちを感じました。企画段階からメディアサイドと密に連携し、利用者の傾向などを聞けたのはとてもプラスでした」(皆川氏)。
Twitter用にギミックを加えた動画
キャッチーかつオリジナル性が高いハッシュタグ「#いざ鬼ヶ島」は、一般へのアプローチ以外に、CM制作チームとの連携にも役立った。ハッシュタグでCMからTwitterへ誘導することは珍しくないが、通常はCMとデジタル施策が分けて企画されることが多いため、ハッシュタグが企画の下支えに機能するのはまれなケースだ。
そんな中、ネットならではの文脈を盛り込んだこのハッシュタグを最初からCMに入れる話を進めたことで、CMで「デジタルで何かが起こる」ことを宣言できた。「CM制作チームからは『TwitterはTwitterで思い切ってやれ』と託され、サントリーさんもトーン&マナーをCMとTwitterで切り分ける判断をされたことも、双方の相乗効果を高める要因だったと思います」と皆川氏。
応募を開始したのは7月18日。Twitter広告のプロモトレンドと、公式アカウントからの動画ツイートを実施した。CMとは異なるクリエイティブを制作し、音声がなくても見られるように字幕を付け、横型動画の上下にバナーを配置して正方形にした動画を配信。スマートフォンでの接触がベースになっている現在、正方形の動画は目を引き、最後のギミックに驚いた声も多かった(以下動画参照)。
\ #野村周平 からの緊急メッセージ/
— SUNTORY(サントリー) (@suntory) 2017年7月12日
「桃太郎負けちまったよ」
「頼れるのはみんなだけだ」
野村さんからあなたへメッセージが
今すぐ音声ONで聞いてみよう
ラストには驚きの仕掛けがあるかも#いざ鬼ヶ島 #ペプシhttps://t.co/IOp00uscrB pic.twitter.com/aM7NwFxbg1
上下にバナーを貼る方法を考案したのは、デジタルメディアのバイイングとプランニングを担当するサントリーコミュニケションズの前田真太郎氏だ。
「以前、当社の別のキャンペーンで、CM用の横型映像をSNSに最適化しなければいけなかったときに試した方法です。スマホでアテンションが取れ、上下の余白に終始メッセージを出しておける点はメリットが大きいですね」と語る。
Twitterを話題の起点となる一次メディアに
また、募集に先駆けて7月11日からティザーとして、ネットを起点に人気が高まっている3組のアーティストが書き下ろした「MOMOTAROの歌」を順次公開。それぞれがSNSでの発信力が高いこともあって、Twitter上で「もうすぐペプシから何かが発表になるらしい」との期待を盛り上げ、関連ツイートのリツイート数や「#桃太郎」「#いざ鬼ヶ島」のハッシュタグ付きツイートの投稿数が一気に上昇した。
「僕の中でのテーマは、Twitterを一次メディアにすることでした」と皆川氏は話す。これまで、特にTwitterのような極めて気軽に投稿できるプラットフォームは、CMや動画投稿サイトなどでの話題がシェアされて二次的に盛り上がる場となることが多かった。だが、Twitterには拡散力があり、動画はとてもよく視聴されるため、動画投稿サイトでの接触ではなく最初から“Twitterで一次接触してもらう”ことを狙えるのではないか、と考えたという。
一方、話題が広がる速度やレスポンスが高いTwitterは、タイムラインがとても速く流れる面もある。「そこは、受け皿としての動画投稿サイトも整備して担保した」と前田氏。
各SNSはそれぞれ特性が異なるため、適したクリエイティブも変わってくる。CMを制作している場合、同じ素材をSNSでも流すケースが多いが、今回はしっかり切り分けられたことが奏功した。とりわけ企画段階から、その利用者の傾向に最も精通するメディアサイドと話し合えたこと、クライアントとクリエイターとメディアが膝を突き合わせて進められたことが成功のポイントだったといえるだろう。サムネイルに大きく「聞いてくれ」と文字を載せたことなども、Twitterサイドからの意見を参考にしたそうだ。
一般参加の“キャスト”が次の拡散の原動力
10月、実際に約50名の一般参加者を八丈島に迎えて、新作の撮影が行われた。彼らには一人ひとり異なる衣装が用意され、その扱いはエキストラの域を超えて“キャスト”そのもの。「天候による撮影予定の変更など、私たちにとっては当たり前のことも、一般キャストの方にどう受け止められるか心配がありました。でも皆さんとても楽しんでくださり、撮影期間中もどんどんTwitterに状況をツイートしてくれていてほっとしましたし、予想以上に濃いエンゲージメントが築けたと思っています」と佐野氏は振り返る。
小栗旬、野村周平両氏を交えた全員のイメージカットをシェアOKとして提供したことは、ファンにとっては嬉しい心遣い。当然、多くの人がその写真をツイートした。実際のCM公開時に、彼らがまた拡散の大きな原動力になったことは、いうまでもないだろう。
Twitterを中心に他のSNSも立体的に活用したことで、それぞれの強みを改めて学ぶことにもなったと前田氏。「一連の施策を通して、メディアのプランニングはもっと精度を高められると感じました。コンテンツの質が高いとオーガニックでも自然に拡散するので、広告でコントロールしすぎると逆効果になる場合もありますが、一方で適切に広告を運用するとさらにぐっと伸びることも多い。今後はそれを見極めつつ、継続的な話題づくりに取り組みたいです」と語る。
皆川氏は「キャンペーン時のボトルデザインの工夫など、パッケージの活用にまだ大きな可能性があるのでは」とデジタルとアナログの連動への期待を話す。今年の“祭り”を経験してチームで得た知見を元に、来年以降どういったブランディングが展開されるか注目だ。