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トリプルメディアを一歩進めた、“PESOオーダー”という新発想

「PESOオーダー」の6タイプ、その特徴と代表的な事例は?

Paid(広告)から始まる3つの型

 Ownedから始まる(1)~(3)のタイプでは、Paid(広告)の存在感があまり大きくない印象がありますが、Paidの存在感がより大きい(4)~(6)の特徴と事例について検討して行きましょう。

(4)PEOS型

 まずは、(4)PEOS型です。センセーショナルなPaid(広告)で口火を切って、番組や記事で取り上げてもらい(Earned)、Webサイトで様々な情報を付加し(Owned)、SNSでの投稿や口コミを期待する(Shared)というもので、2016年の話題作“McWhopper(by BurgerKing)”を前回の記事で紹介しました。

(5)POSE型

 では、(5)POSE型はどうでしょうか? パワーのあるPaid(広告)を皮切りに、商品開発やウエブなどのOwnedにつなげ、P→Oの内容がSNSで話題になり(Share)、そのことがまた記事や番組で取り上げられる(Earned)というものです。

 2014年の話題作“Sorry, I Spent it on Myself”が、この類型でしょう。これは、イギリスのお洒落百貨店「ハーベイニコルズ」によるクリスマス・キャンペーン。起点となったテレビCMが、なかなか独特でインパクトのあるものでした。

 幸福そうな複数世代の家庭。孫とおぼしき青年が、祖母にクリスマスプレゼントを渡します。包装紙は、お洒落なハーベイニコルズのもの。期待で顔がほころぶオバアチャン。ところが、開けてみると、そこには安物のクリップが。パッケージには、“Sorry, I Spent it on Myself(ごめんね、お金は自分自身に使っちゃった)と書かれています。そしてよく見ると、青年はかなり高そうな上着を着用している……。別のバージョンでは、新婚と思われる男性の手に、爪楊枝が。パッケージにはやはり“Sorry, I Spent it on Myself”。爪楊枝を贈った奥さんの手元には、これまたいかにも高そうなバッグが……。

 この事例のOwnedは、数十円~数百円のクリスマス用コレクションの商品開発とそれを紹介する自社Webサイト。そして、「自分自身にもっとお金をかけよう(ハーベイニコルズで買い物してね)」というメッセージだと考えられます。この数百円のクリスマス用コレクションは、どこの店でも品切れになり、2万6,000点もの品が、わずか3日で完売したと言います。そして、もちろん、SNSで多くの投稿や口コミがなされ、多数のメディアでも紹介されました。

 PESOオーダーで考えると、POSE型と言えそうですね。このPOSE型は、2011年のAmerican Rom(ルーマニアのチョコレートバー)や2012年のPolar Bowl by Coca-Colaなどを始め、多くの事例が見られ、もう1つのスタンダードな型と言えそうです。

(6)PSE(O)型

 最後に、(6)PSE(O)型はどうでしょうか。これは、Paid(広告)がインパクトのあるもので、それがSNS等で話題を呼び(Shared)、そのことが番組や記事で取り上げられる(Earned)というものです。

 この型については、最近の日本の事例を取り上げてみましょう。赤木乳業の「ガリガリ君」が2016年4月1日に10円値上げした時の広告コミュニケーションです。ガリガリ君は諸般の理由から、25年ぶりに60円から70円に値上げせざるを得なくなります。

 広告コミュニケーションの主役は、会長始め100人の社員が神妙な面持ちで頭を下げる“お詫びCM”。4月1日と2日の2日間限定でテレビCMとしてオンエア、同時に4月1日の日経新聞朝刊にも全面広告が出され(Paid)、SNS上で大きな話題を呼び、YouTube上でもこの“お詫び動画”が1週間で100万回以上再生されます(Shared)。このことが、番組や記事でも大きく取り上げられ(Earned)、値上げをしたにもかかわらず、4月の売上は前年比10%増を記録したと言います。

 この広告コミュニケーションは、PSE(O)型であり、また特に最初にPaid(広告)で“オフィシャルにお詫び”したことが、その後のS→Eにつながったと考えられます。

広告メディアの未来は、オウンドメディアとの関わり方にかかっている

 6つの型のうち(1)~(3)はOwnedで始まり、(4)~(6)はPaid(広告)で始まっています。しかし、(4)~(6)についても、広告コミュニケーションあるいは統合マーケティング・コミュニケーション全体のコアは、Web動画であったり何らかの仕組みであったりというOwnedにあると感じられました(取り上げた事例では(6)PSE(O)型だけは、どうしても必要だった“値上げ”という事実があっただけで、特に企画したOwnedはありませんでしたが)。

 そのように分析すると、現代の統合的な広告コミュニケーションを企画するには、まず何らかのOwnedを考えるというのがスタンダードであるように思います。またその意味で、広告メディアとしてのPaidの未来は、それぞれの統合型広告コミュニケーションの「コアとなるOwnedとどう関わって行けるか」にかかっているのではないでしょうか。

 「PESOオーダー」の考え方自体、まだまだ精緻さに欠けるものであることは私自身承知しており、今後さらに精緻に分析し考察を深めて行きたいと考えています。より細かく分類すればPESOオーダーのタイプは増加するでしょうけれど、しかしあまり複雑なモデルでは“使い勝手が悪い”とも予想されます。そのようにまだまだ検討の必要な考え方ではありますが、ただ、このように言語化し、モデル化的なことを試みることで、多くの事例の理解がより深まり、また新たに広告コミュニケーションを企画する際の手助けにもなるのではないか。そう考えて、3回にわたってご披露しました。

 最近の日本のカンヌライオンズの受賞作を頭に思い浮かべてみるとWeb動画(Owned)が多く、サントリーCCレモンの“忍者女子高生”やNTTドコモの“爆速エビフライ”、そして資生堂の“High School Girl?”やソニーのゲームソフトの“Gravity Cat”などは高い評価を受けました。しかし、複数部門で多くの受賞をする「話題作」になったものは、あまりありません。その理由の一つは、これらの広告コミュニケーションが、単発の広告表現としては高いクオリティをもっているにもかかわらず、PESOオーダーを意識した統合型の広告コミュニケーションとしての側面が弱いことであるように、筆者には感じられます。

 いずれにしろ、読んでくださった方々にぜひ、様々なご意見をいただきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

(※この連載は、2017年11月19日の日本広報学会第23回研究発表全国大会で筆者が発表した内容に基づいています)

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この記事の著者

佐藤 達郎(サトウ タツロウ)

多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論/メディア論)。2004年カンヌ国際広告祭フィルム部門日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DYMP→2011年4月 より現職。
受賞歴は、カンヌ国際広告祭、アドフェスト、東京インタラクティブアドアワード、ACC賞など。審査員としても、多数参加。個人事務所コミュニケーション・ラボにて、執筆・講演・研修・企画・コンサルなども。また、小田急エージェンシーの外部アドバイザー、古河電池の社外取...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/01/22 09:00 https://markezine.jp/article/detail/27609

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