高速PDCAを回せる組織体制、ルールとは
シナリオの精度向上には、PDCAサイクルを多く回していく必要がある。そのためIDOMでは、チャット対応を行うチームの運営方法をルール化した。
「クルマコネクトでは複数のチームでPDCAを回していますが、数百パターンの会話スクリプトと会話ルールを定義し、各担当者による回答に制限をかけています。回答の自由度が大きいと、PDCAが回しづらくなってしまうためです」(中澤氏)

オペレーターの回答を制限することで、A/Bテストを行いながら改善できる。また営業は個々人のスキルに頼りがちであるが、会話シナリオの設計とPDCA手法を確立したことで、営業コミュニケーションを可視化することにもつながった。チーム全体がスキルアップし、かつ一定のクオリティが保たれ、クルマコネクトのKPIは7倍にまで向上している。
UX企画担当者を中心にした組織体制が成功に導く
iettyからは、チャットマーケティング導入にあたって同社が定義した3つのステップと組織体制が紹介された。

最初のステップは「導入の前提整理」。なぜチャット接客が必要なのかをまとめ、チャット接客のコンバージョンポイントを設定することが序盤では重要だという。続いては、ユーザー体験設計と業務設計からなる「ビジネスプロセスの検討」だ。前段で中澤氏が説明したシナリオ設計は、ここのステップにあたる。
そして最後が、実際に運用をするための人材採用やシステム設定といった「実施準備」である。「どのステップも一足飛びに行わず、一つずつ丁寧に検討することが重要」と内田氏は話す。
続けて「プロジェクト形式で進めるチャットマーケティングは、事業と技術のハブとなるUX企画担当者が重要な役どころ」と、自社の組織体制を紹介。iettyではUX企画担当者が中心に立ち、チャットセンターと営業担当、サービス開発部門のハブとして連携を強固にしている。
UX企画担当者のミッションは2つある。膨大な会話とアクションデータを分析し、事業や運営に関わるインサイトを社内へフィードバックすること。もう一つは、実装までのディレクションを実行することだ。そのために分析スキルとチーム全体を動かすリーダーシップが求められる。内田氏は「UX企画担当者がいないとしても、チャットマーケティングの成功のため施策の成果を評価できるように管理し、会社全体で取り組んでいく仕組み、体制が必要」と提案した。
なぜチャットマーケティングをやるのか?という問いが重要
最近、チャットにおいてはチャットボットやAIの活用に注目が集まっているが、中澤氏と内田氏はどのように考えているのだろうか。
中澤氏は営業に特化したAIがまだ実用化に至っていないことを挙げつつも、今後のテクノロジーの進化に期待を寄せた。また内田氏はiettyについて、各種の顧客データから、その成約予測にAIを活用していることを言及し「AIも作業フローのどこを自動化し、何をしたいのかを見定めた上で導入することが結果につながるのではないか」と意見を述べた。

2社の事例からわかることは、チャットも電話やメールと同じく「顧客接点」の一つであるということだ。そして、なぜチャットマーケティングが必要なのかを明確に設計することが重要なのもわかった。その上で、コミュニケーションのハードルを下げられる、ログが残せる、自動化しやすいなどの特長を活かしたマーケティングを行えば、新たな顧客獲得のチャネルとなり得るかもしれない。
セッションの終わりには、両者とも「チャットマーケティングをしてみたいと思った企業がいれば、ぜひ一緒にこの分野を盛り上げたい」と意欲を見せた。