※本記事は、2018年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』26号に掲載したものです。
社長自らの「自己否定」が成功要因に
現在の100円ショップの国内シェアは、大手4社の寡占状態だ。中でも他を圧倒するのが「ザ・ダイソー」を展開する大創産業。2017年3月期の売上は4,000億円を超え、100円ショップ市場全体の約6割を占める。
同社は1977年創業。他に先駆けて100円ショップという業態を確立した。主にトラックでの移動販売でスタートしたが、現在は国内3,150、海外26の国と地域に1,800の店舗(2017年3月現在)を展開している。
本書『百円の男 ダイソー矢野博丈』はそんな大創産業を一代でここまでの規模に育て上げた創業社長、矢野博丈氏の評伝だ。
矢野氏が好きな言葉の一つに「自己否定」がある。「ワシはダメだよ」と手のひらに書くほど、自信がなかったそうなのだ。売上4,000億円の大企業の社長とは思えない。しかし本書を読むと、そうした謙虚さ、自信のなさこそが、ダイソー成功の根源にあるとわかる。
矢野氏が今のダイソーにつながる事業に出会ったのは、地元の広島で移動販売を生業にしていた頃のことだ。ある時、たまたま公民館に女性たちが続々と入っていくのを目にした。興味をもって自分も公民館に行ってみると、「大阪屋ストアー」という看板の下に、たくさんの小物や雑貨が並べられていた。飛ぶように商品が売れていくのに感心した矢野氏は、一緒に働かせてもらうことにした。
矢野氏は、大阪屋ストアーで経験を積んだ後に独立。1972年3月に「矢野商店」を設立した。大創産業の前身である。
矢野商店の商売は順調に運んだ。しかしその一方、大阪屋ストアーの旗色は悪く、とうとう倒産してしまった。明暗を分けたのは、売り場を提供する業者や顧客などステークホルダーとのつき合い方の違い。たとえば矢野氏は実際には売上が立っていなくても、よかったように見せかけて売り場提供者へのマージンを多めに払うようにしていた。だが大阪屋は逆に、売上を少なく申告し、利益確保に走っていたのだ。どちらが信頼されるかは言うまでもないだろう。
ただし矢野氏は、別に「信頼されよう」と心がけていたわけではないようだ。業者から「よく売れましたねぇ」とほめられたくて、見栄を張っていたのだという。自己評価の低さゆえに、他人から感謝されたりほめられたりするのが嬉しかったのだ。自分の金銭的な利益よりも、そうした嬉しさを優先した。素直に喜ぶ矢野氏は周囲の人や顧客に愛されていった。そうしたことが、矢野氏の成功につながったのは間違いない。
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