着任後に取り組んだゴール設定と優先順位付け
山田:その絞り込んだ3つとは、具体的にどんなことですか。
中東:最初に設定したゴールは「売上に貢献すること」です。売上貢献の視点には、市場や商材もありますが、特にお客様の購買プロセスという視点に着目しました。
社名としてのKDDIの認知度は十分に高いのですが、BtoBのソリューション事業においてKDDIは購買プロセスの様々な局面でパートナー候補のリストから漏れてしまっていました。
たとえば、「働き方改革」を課題としているグローバル企業が、KDDIをパートナー候補として認識しているでしょうか。KDDIにはソリューションがあるのに提案書を出すように求められなかったり、提案書を提出しても勝ち残れなかったりしているのが現状です。
これでは購買プロセスのあちこちに穴が空いているようなもので、この穴を塞ぐことをマーケティングでやろうと提案しました。

具体的には、購買サイクルの中で顧客企業の誰がパートナーを選ぶかを考え、ソートリーダーシップを確立することです。ソートリーダーシップとは、特定のカテゴリーでリーダーと思われる存在のこと。スマートフォンならばこのブランドと、多くの人が圧倒的なリーダーとして思い浮かべる企業がありますよね。
同じように、KDDIの法人事業がどの分野のソートリーダーかを明確にする必要があります。しかも、法人のお客さまの経営課題とKDDIの提供価値の関係を明確にし、数多あるSIベンダーの一社に見られないようにする必要がありました。
案件獲得については、デマンドセンター機能を新しく整備することが必要です。デマンドセンターが担う「デマンドジェネレーション」とは、購買決定権のある人を把握し、KDDIに依頼する案件の有無を確認し、営業に渡す一連の活動です。この活動をデータドリブンで追跡できるように取り組んでいます。
さらに、アナリストリレーションズの一環として、リサーチ機能も拡充しました。リサーチファームから得られるデータがあれば、様々なインサイトを提供できるようになります。こうしたデータをもとに訴求したいコアメッセージを確立し、社内的にも対外的にもメッセージアウトを行うようになりました。
昔ながらの広告代理店さんの窓口業務を行っていたチームは、統合マーケティングを実行できるチームに生まれ変わりつつあります。
山田:チームのミッションが変わったように見えますね。チームメンバーは、自分たちの仕事の再定義をどう受け入れたのでしょうか。マーケティング部門に新しいリーダーが来れば、チームメンバーは仕事が変わることをある程度受け入れられるでしょう。でも、他の部門との関係も変わるとなると、社内への影響が大きいと思います。難しくありませんでしたか。
中東:正確に言うと、仕事内容という意味ではその多くが以前と同じこともやっていますが、仕事の定義を変えたので違うように見えるだけなんです。変化を受け入れることは人それぞれで、簡単ではなかった人もいるでしょう。
関係が変わるという意味では、対内的にも対外的にも、法人事業では明確なメッセージを発信できていませんでした。法人マーケティング部の変革以前に、KDDIは今、会社全体が変わろうとしています。既存のお客様を維持しつつ、どんな新しい価値を提供するかを考えた時、「つなぐ」ことを軸にIoTや5Gを始めとする新しいテクノロジーが重要と考えました。
新しいテクノロジーは、お客様のビジネス設計に新たな価値を提供できるはずです。トヨタが自動車からモビリティサービスの会社に変わろうとしているように、デジタル変革をしようとする企業が抱えている悩みに対し、先進の技術と巨大な通信基盤を持つKDDIが提供できる価値はたくさんあるはずです。KDDIのビジネス資産をうまく活用してもらい、お客様のビジネス設計を伴走しながら行う会社にKDDIは変わろうとしています。
もちろん、一朝一夕には会社全体は変わりません。社員の意識を変えるためには、トップの話を引用したり、社内でコンテンツを作って配布したりとコミュニケーションの量を増やすように留意しています。実は講演活動やこうした取材対応もその一環なのです。