大規模屋外イベントが抱える「壁」へのチャレンジ
――実証実験を兼ねた、大きなチャレンジだったわけですね。
長尾:5Gの活用ももちろんですが、「代々木を舞台にプロジェクションマッピングをやろう」という試みそのものが、実はとても大きな挑戦でした。

――それは技術的な問題ではなく、立地的な問題でしょうか?
長尾:特に懸念したのが人口密集地ゆえの安全性です。過去に23区内で実施された大規模なプロジェクションマッピングもありましたが、人が集まりすぎて、安全性の観点から中止になってしまった。
今回の施策に関しても、企画のスタート段階では「中止になった例があるから難しいのでは」という声が上がりましたし、安全性をクリアするため、何をどのように許諾を得ればいいのか、かなり頭を抱えましたね。
イベント開催地である渋谷区に説明をし、渋谷区の協力も得ながら、警視庁、国土交通省に申請をしています。さらには代々木の町会の皆さん、駅周辺での実施だったため、JRさんや小田急電鉄さんにもご協力をお願いしています。
企画立案からイベント実施まで、約7ヵ月の期間がありましたが、国土交通省からイベント実施の許可が下りるまで6ヵ月かかりました(苦笑)。その間も、許可が下りるまでは実施できるかさえ不明瞭な状態でありながら、より完成度の高いイベントを目指すために演出に関わるアイデアや技術を練るという…。

――多くの人たちの協力があってこそ、だったわけですね。すると「街の気運を高める」という点で、協力くださった人たちの反応が気になります。
長尾:「すごいね」というおほめの声をいただけましたし、中には涙してくださった方もいます。一緒にイベントを作り上げた関係者の一人として、感慨深さを感じていただけたのかもしれません。
屋外広告にしても、屋外における大規模イベントにしても、日本は規制が厳しい。今回のプロジェクトが安全性を保ちながらイベントを遂行できたことで、都心で大規模なプロジェクションマッピングを行うことへの実績が築けたと自負しています。
この成功や反響を経て、行政側も少なからず可能性を実感してくれたはずです。プロジェクションマッピングを活用したイベントだけでなく、様々な手法で街が彩られていく、最初のきっかけになれたのではないかと。
新たな技術・新たな表現を広げる2020年に
――5Gやイベントを盛り上げるための映像技術、さらに街の協力や規制との葛藤。この全てが「YOYOGI CANDLE 2020」の成功につながったことを実感させられましたが、今回の成功を経て、次なるチャレンジについてもお聞かせください。
長尾:スポーツ観戦の新たな形を示せた「Kirari!」にしても、そのリアルタイム投影を叶えた5Gにしても、今後もどんどん新技術が登場するはずです。しかし先ほども申し上げたとおり、僕らは規制を乗り越えなきゃいけない。

人々の安全を守るための規制を緩和することは、もちろん、容易ではありません。ただ、新技術とアイデアと、それに賛同する人々の協力が得られれば、今回のように規制の範囲内でも新たなチャレンジができ、その成功が規制を緩和し、新たな技術・新たな表現を広げることにつながるはずです。
規制が緩和されれば、もっと新しい、もっとおもしろいエンターテインメントに挑戦できる。この規制緩和を広げるような試みこそ、2020年に向けて挑むべきチャレンジだと感じています。
小田:2020年は、東京が世界中から注目されます。ドコモは5Gのサービス開始に向けて、5Gだけでなく様々な最新技術を使ったイベントなどを行っていきますので、ぜひ豊かな技術が創造する未来を、多くの人に体験していただきたいと思っています。