Web訪問者の姿を可視化できれば、より良い顧客体験が実現できる
プレイドは、今年2018年に創業7年目を迎えるスタートアップ企業だ。代表取締役の倉橋健太氏は、新卒で楽天に入社し、Webディレクションの統括や戦略立案に携わった経験を持つ。「顧客ランクのデータを分析しながら、顧客ロイヤルティ向上につながる施策を考えたり、様々なことを経験しました」(倉橋氏)という。
そんな同社のミッションは「データによって人の価値を最大化する」こと。「ネットで欠如しているユーザーデータを蓄積するミドルウェアとなり、人の価値を最大化するためのサービス」を開発・提供している。その具体的なソリューションが、2015年にリリースされた「KARTE」だ。
KARTEの特徴は、自社のWebサイトを訪問したユーザーに対して、アクセス情報や来訪パターン、ページ遷移といったCookieから取得できる情報をひもづけ、バラバラの数値でしかなかったアクセスログを「人」として見える形にして、ユーザーの姿を可視化できることにある。さらに会員情報があるサイトであれば、会員情報も統合可能だ。
リアルな店舗であれば、「この人は以前も来店したな」「過去にたくさん購入したお客さんだ」「この前はスカートを購入したけれど、今日はブラウスを中心に商品を見ているな」など、顧客の行動やステータスをつかみやすい。倉橋氏によるとKARTEは、そのような一人ひとりに合わせたサービス体験をWeb上で実現するサービスだという。
特長は、ユーザーの行動をリアルタイムに解析し、サイト内外の様々なデータのつながりから人を文脈的に把握できること。Webの行動履歴など様々な情報を統合し、どういうセグメントに属するのか、ゼロコンマ数秒という速度で解析して表示する。
ECや金融、人材サービス、旅行会社などを中心にユーザー数を伸ばしている。「KARTEが選ばれている理由は、分析ツールではなく、『Web来訪者の姿を見せる』ことに注力しているからです。人の姿が見えれば、その人を理解し、顧客体験の向上に努めることができます」(倉橋氏)
デジタルマーケティングに対する「違和感」の正体
プレイドがKARTEの開発を進めてきた背景には、同社のユーザー企業を始め、様々な企業が感じているはずの「デジタルマーケティングに対する“違和感”」が原動力にあるという。
本来であれば、データを活用して「お客様にいい体験をしていただく」ことが目的であるはずなのに、「『いかに効率的に、効果を最大化するか』に焦点が当たり過ぎていることに、違和感を抱きました」(倉橋氏)という。
元々データを活用・分析する背景には、「モノやサービスを提供したいお客様がいて、そのお客様にどう届ければ良いか」を理解し、それをパフォーマンスにつなげたいという動機がある。
Webアクセス解析を行うのも、「どういうユーザーが来ているのかを把握したい」ということが根本にあるはずだ。それがいつしか、「コンバージョンを上げるために」という流れになり、「データを活用して、最短で最大の効果を上げること」だけに主軸が置かれるようになった。
こうした目的で利用されるデータは、購買履歴や売上単価などの「結果データ」が中心だ。倉橋氏は「それらはあくまで、結果として企業に落ちたデータであり、結果に至っていない行動データは十分に活かされてきませんでした」と語る。
もちろん、こうした結果データを活用してセグメントを切ることに意味がないわけではない。ただ、顧客を理解して「より良い体験」を実現するには、「深み」が足りない。
ユーザーのデジタル環境も変化している。PCやガラケーからスマートフォンへとデバイスシフトが起こるなか、一人ひとりの可処分時間が細分化された。モノを購入したり店を探すような時も、検索ではなくInstagramで画像を見て直感的に決めることも増えてきている。チャネルが分散してきており、もはや、顧客行動を「点」で見ているだけでは、その人物像を理解しきれない状態だ。
ユーザーの情報処理スピードは上がり、ニーズは多様化/断片化している。しかも、デジタルマーケティング自体も細分化し、「何かをやろうと思っても、ややこしい、そして面倒くさいという問題が起こっています」と倉橋氏はいう。
データを活用し、すべての顧客チャネルの体験を向上する
本来の課題である「顧客を理解して、最適な接客を行い、パフォーマンスを上げること」に注力するのであれば、シンプルに、「顧客を理解するために必要な情報を集約・分析し、その状態をリアルタイムに可視化すること」ができれば良い。次は、その理解に基づき最適な接客を進める。すると、顧客の反応をリアルタイムに把握できるので顧客理解が深まる。こうしてPDCAが回り出す。
もうひとつ、顧客理解を進める上で忘れてはならないことがある。それが、行動の裏にある顧客の文脈を読み解くことだ。これまで、デジタルマーケティングのデータ活用であれば、購買履歴や売上履歴、購買頻度など、結果のデータを中心に顧客理解を進めようとしていたが、そもそも人が何かを購入するまでには、様々な行動がある。そうした行動を蓄積し、「ある顧客が購入に対してどのような状態にあるか」を分析して、わかりやすいようにすることも必要だ。
KARTEでは、ユーザー軸で情報を集め、可視化しているため、これにより、専門家にデータ分析を依頼したり、分析結果の解釈をレクチャーしてもらったりすることなく、顧客理解を進めることができるという。
そして、こうして収集された1st Party Dataの適用範囲は、Webだけとは限らない。LINEやFacebookメッセンジャーのコミュニケーションに適用したり、チャットやメールに利用することもできる。将来的には広告なども含め、「データを活用して、顧客チャネルのすべての体験を最適なものにしていきます」と倉橋氏は説明する。
「個客」を知ればきめ細かなコミュニケーションが可能に
具体的に、顧客を知ることでどのようなコミュニケーションが可能になるのか。
たとえば、スマホで本格的な大学受験対策ができる受験アプリ「スタディサプリ」では、KARTEで作成したアンケート結果をもとに、最適な受験コンテンツや学習の進め方を提案することで、「学習効果を上げたい」という顧客のニーズに応えている。
また、通販サイトのQVCでは、ターゲットとする顧客に対し購買行動を喚起するために、「当たりくじ」を提示するなど、ユーザーによって提案の出し分けを行っている。
「一度にいろいろなキャンペーンを一気に表示するWebサイトが多いのですが、すると多くの人は『これは自分には必要ない』として、結果としてコンバージョンが下がるケースが見受けられます。きちんと個々の顧客を理解し、想定する人に最適な提案を行うことで、コンバージョン率を上げられます」(倉橋氏)
他にも、カートに商品を入れたまま離脱しそうになったユーザーにメッセージを表示したり、人材紹介であれば、特定の経歴を持つ人に特別なお知らせを出すなど、一人ひとりの特性に合わせた提案ができる。こうした提案を続けることで、「自社の価値を届け、パフォーマンスが上がることが、そもそもデータ活用で目指していたことではないでしょうか」と、倉橋氏は説明する。
講演では、こうしたKARTEの機能を実体験できるデモサイトの紹介もあり、自分のスマホからKARTEを操作するシーンもあった。
ARやVR、さらにはMR技術も適用して顧客体験向上を目指す
同社は今後も、さらなる顧客理解に向かって、様々な取り組みを進めている。中でも注目なのは、2018年1月に発表された「Googleアナリティクスとのデータの相互連携開始」というニュースだ。
これまでKARTEは、基本的に自社Webサイトへの流入経路、サイト内の行動履歴、そして会員データや独自のスコア、購買データなどを利用して顧客分析を行っていた。今回の連携により、企業がGoogleアナリティクス360を導入している場合、サイト外部での広告接触データもKARTEのユーザー解析に反映できる。「自社サイト外の顧客体験データも活用し、さらなる顧客理解へとつなげていきます」と倉橋氏は語る。
そのほかにも、Salesforce、Marketoを始めとする主要MAとの連携も発表、様々なツールでKARTEのデータを活用できるようにしている。
またユニークな取り組みとして、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)への対応も進めている。
ARの実証実験として進めているのが、不動産情報サイトとの連携だ。ユーザーの不動産閲覧情報を、リアルな不動産店舗と共有することで、店舗への内覧申し込みや問い合わせ時に、何度も不動産条件を尋ねることなく、スムーズな対応が実現できる。
VRも現在取り組み中だ。これは企業のWebサイトを1つの空間として表現し、顧客がサイト内をどのように行動しているかを仮想空間で表現することで、より直感的に顧客理解を深めようというものだ。
たとえばECサイトであれば、バーチャルに「デパート空間」としてサイトを表現し、顧客の姿も実際に立体化して、「同じ商品を行ったり来たりする様」や「カートに入れて、レジまで持っていくが引き返す様」などがリアルに見えるようにする。このようにVRで表現することで、分析や解釈ではなく、直感的な理解が深まるという。
MRは、店舗とECを両方運営している企業に対し、VRの技術を応用して店舗の壁にWebの顧客像を映し出す取り組みだ(参考記事)。リアル店舗とWebの顧客が同じ商品を見ていることもあるし、Webの顧客が商品を購入しているシーンを、リアル店舗の顧客や店員が眺めることもある。
「リアル店舗とECを併用している場合、ともすればECはリアルを補完すると捉えられがちですが、ユーザーにとってみれば、リアルもECも、対等なチャネルです。リアル店舗にECの顧客を投影することで、そうした事実を改めて理解できるようになり、その結果、より良い提案やコミュニケーションにつながります」と倉橋氏は語る。
なおプレイドでは、こうした新しい取り組みに加え、定期的にユーザーを招いた勉強会や事例を共有し、ユーザーと一丸になって「さらなる顧客体験の向上」に努めている。勉強会で共有した事例をもとに、他のユーザー企業が工夫を重ね、より良い提案とコミュニケーションにつなげていくという。
誰もが簡単にデジタルとアナログの壁を越えた革新的な「顧客体験」を実現できる未来に向けて、同社の「BEYOND DIGITAL MARKETING」への挑戦に期待がかかる。