マーケ機能の社内散在、ジョブローテーションでスキル蓄積に苦慮
登壇者の中東孝夫氏は、IBMやアドビシステムズ、シスコといった外資系企業を中心にキャリアを重ねてきた、BtoBマーケティング業界をリードする人物だ。2016年8月にKDDIに入社し、法人マーケティング部門を率いてきた中東氏は、この2年をどう振り返っているのか。
「入社当時は、マーケティングの機能が社内外の関係部署へ散在し、リソースも足りず現場に高い負荷がかかっている状況でした。さらにメンバーもジョブローテーションのためにマーケティング経験が浅い場合が多く、仕事に対して『受け身の体勢』になりがちな状態でした」(中東氏)
こうした問題意識のもと、マーケティング組織のマネジメントを担う中東氏は以下に挙げる3つのアクション「組織ミッションの定義と浸透」「コミュニケーションの量」「チェンジマネジメント」を実行していった。
組織ごとのミッションを「定義」するということ
組織とは、何かしらの共通目的を持ち、それを達成するために集まった共同体だ。つまり組織がバラバラになっている状態とは、共通目的が曖昧であるということを示す。
そこで中東氏は、まず「組織ミッションの定義と浸透」に着手。マーケティング組織全体のミッションを「法人事業へのビジネス貢献」と定義した。
「ミッションを定めると、現状との差分がギャップとして浮き上がります。そのギャップを埋めるための戦略や実践すべきことが見えてくる。それを成し遂げるための組織変革なのだと整理すると、シンプルに理解できるのです」(中東氏)
そして「法人事業へのビジネス貢献」を「お客さまの各購買サイクルにおける『KDDIの欠落・脱落』を最小化すること」として明確化し、自分たちの役割は「『ケータイ屋、回線屋』としての顧客のKDDIに対する認識・パーセプションを変えること」と定めたのだ。
その上で、顧客の購買サイクルを細かくブレイクダウンして分析した。たとえば「ショートリスティング」のフェイズにおいては、「自社が当該分野のリーダーとして認識されないために、ベンダー選定のショートリストに入ることができず、提案機会を逃している。そのためにはIMC(統合マーケティング・コミュニケーション)によるソートリーダーシップの確立が必要」というように仮説を立てていった。
ソートリーダーシップ(Thought Leadership)とは、たとえば「検索ならGoogle」というように、会社や個人がある分野の権威・リーダーだと認識されていて、その専門性が客観的に称賛されている状態を表す。
「ソートリーダーシップを獲得するためには、専門的な第三者による”好意的なレッテル”が必要です。そのため、戦略PRを行ったり調査機関からの評価を獲得(Analyst Relationの構築)しつつ、ペイド広告やビッグイベントなどを通じて自社のメッセージを伝えなくてはなりません。これらのチャネルに横軸を通して統合的にコミュニケーションを設計するのがIMCなのです」(中東氏)
このような各フェイズにおける欠落・脱落である「バケツの穴」をチームとしてふさぐための役割分担として、もともとあったチームをIMC、CS(カスタマーサティスファクション)、MI(マーケティングインテリジェンス)として位置づけた。
こうして、「お客さまの各購買サイクルにおける『KDDIの欠落・脱落』を最小化すること」に対する各部門の職責を明確にしたのだ。