変化に対する心理的抵抗を取り除くために
チェンジマネジメントのヒントとなるのが、ボストン・コンサルティングのコンサルタントによる書籍『The Change Monster』が紹介している「チェンジモンスター」という概念である。チェンジモンスターは、改革を妨害したりかき回すことにつながる、「恐怖」や「反発」といった人間的・心理的な要因をカリカチュアしたものだ。
たとえば「タコツボドン」というチェンジモンスターの口癖は、「うちの部署の仕事でしょうか?」。視野が狭く、固定観念に陥りがちな状態を表している。また多いのが「ミザル・キカザル・イワザル」。「どうせ組織変革など今回もかけ声だけだから、様子見でいよう…」という感情は、思い当たる人も多いのではないだろうか。
また中東氏が「以前の自分」と例に挙げたのが、様々な言い訳をし、改革を回避する「カイケツゼロ」。できない理由をしたり顔でリストアップするばかりで、「どうしたらできるのか」が出てこないというチェンジモンスターだ。
ここで気をつけたいのは、チェンジモンスターは特定の人格・人物のの問題ではなく、誰もが持つ普遍的な感情であり、皆が囚われてしまう可能性があるということだ。中東氏は、チームでチェンジモンスターを理解する勉強会を実施し、「チェンジモンスターのような考え、行動はチームとして評価しない」と宣言した。
「ビジネスパーソンであれば、チェンジモンスターという概念が好ましくないと理解できるはず。このアプローチを採り入れることで、変革に対する不満やネガティブな反応も個人の人格や信念・仕事への態度に由来するものではなく、誰にでも起こりうる一時的な感情的反応なのだと理解できます。
ネガティブな言動に対しても、個人の人格と切り離してユーモラスにダメ出ししし合えるようになり、不毛な個人攻撃を防ぐことができます」(中東氏)
リーダーから部下への指摘や部門間での合意形成プロセスにおいても、チェンジモンスターを指摘することはお互いに冷静に対処するために有効だという。
「自分たちの心に出てくるチェンジモンスターを払拭することが、チェンジリーダーになることだと理解してもらい、リーダーは組織を早くその体制にチームが向かうことを手助けするべき」と中東氏はまとめた。
インターナルマーケティングで、社内のマーケ認知・理解を高める
改革の結果、チーム内のやるべきことが整理され、徐々にパフォーマンスに現れてきたというKDDIの法人マーケティング部門。現在、中東氏が取り組んでいることは「社内に対する”マーケティング組織のマーケティング”」だ。
中東氏によると「マーケティング組織は、社内価値ギャップの溝にはまりやすい」という。このギャップは、マーケティング組織の実務と、他部署から向けられる期待の間にギャップが生じながら、マーケティング組織の意識が社外へ向けられがちで、社内に対する貢献意識が希薄な場合に発生する。結果、社内で孤立し「マーケティング部門は我々が期待することをせず、広告にお金ばかり使って……」という印象が強く出てしまうのだ。
その対策として中東氏が取り組んでいるのが、マーケティング組織が行うべきことの認知促進と、期待値のコントロールを行うインターナルマーケティングだ。さらには、社内ステークホルダーに対する満足度調査も実施している。
インターナルマーケティングでは、営業系部署への説明会の実施や、社内ポスターの掲示、メルマガの配信と細かな取り組みを丁寧に行っている。「BtoB事業は、企業規模が大きくなるほどマーケと営業の距離が離れやすい傾向があり、リソースを割いて対応する必要があります」と中東氏。
そしてステークホルダー満足度調査は、社内のキーマンに対してマーケティング部門として定期的にアンケートを実施する。顧客に対しての調査は得意なマーケティング部門も、自分や部門に対する評価はなかなか気が進まない。実際に個人ないし部署への社内の反応が数値化されるため厳しい結果も出るが、社内への貢献意識を醸成し、確実に改善へつながるものだという。
「マーケティング組織の業務は、一人で解決することはほとんどなく、他部署の協力を必要とする。だからこそエンドユーザー(マーケティング対象)への意識の一部を社内に対しても向けることで、部署間の関係性は改善できるのではないでしょうか」(中東氏)
改革はまだ道半ばだが、社内からの「数年前とは違ってきた」という声が励みになると中東氏。組織改革へ挑戦するマーケターへ次のようなエールを送り、セッションを締めくくった。
「KDDIの法人事業部メッセージは『お客さまの挑戦に、全力で。』です。新しいことに取り組もうとすると、必ず障害や反発があるものです。本日の内容が、みなさんのマーケティング組織の変革と挑戦に活用され、前へ進むことにつながれば、こんなに嬉しいことはありません」