商品ブランドを重視した戦略に変更
資生堂ジャパン メディア統括部は、統合マーケティングコミュニケーションをリードする組織であり、傘下にメディアバイイング、戦略PR、メディアミックスの3つのグループを抱える。その中で、中條氏はメディアバイインググループに所属し、ペイドメディアのプランニングやバイイングに従事しているという。
資生堂のブランド戦略は転換期を迎えている。数年前まで資生堂の企業イメージは向上しているが、それに反比例するようにグループの国内シェアが低下していたのだという。この現状を打開するため、生活者とのコミュニケーションを、個別の商品ブランド重視に転換した。
例えばMAQuillAGE(マキアージュ)の場合、以前のCMではMAQuillAGEのロゴと資生堂のロゴを同時に出していたが、現在は商品ブランドのMAQuillAGEのみを露出させている。「商品ブランドを通じた生活者との関係強化を重視する方向に変わりました」と中條氏。各商品ブランドが展開する施策についても、ブランド単位で費用対効果が問われることになった。
変化する生活者のテレビ視聴体験
生活者とメディアとの関係も大きく変わった。これまではテレビの視聴率とは、番組をリアルタイムで実際に見ている人の割合だけを示す「リアルタイム視聴率」のみを指していた。
しかし、平成29年版の「情報通信白書」によれば、2013年から2016年までのテレビの行為者率は、10代から60代までの全年代で、休日においては録画視聴がリアルタイム視聴を上回っている。今やテレビ番組は、忙しい平日ではなく録画して休日に視聴するものに変わった。この視聴スタイルの変化に伴い、実態に即さないリアルタイム視聴率だけの評価を見直そうという動きが出てきた。それが2016年10月から新しく計測が始まった「タイムシフト視聴率」である。
タイムシフト視聴率の増加とともに、番組というコンテンツの視聴体験自体も変化している。面白い番組はテレビだけでなく、スマートフォンやPCなど、好みのデバイスで自由に観たいというニーズが出てきたのだ。資生堂がターゲットとする20代や30代には、ほとんどテレビを見ないという層すら存在する。
マスメディアの上にコンテンツが載っていた時代は、メディアを捉えれば生活者にアプローチできたが、どのデバイスでもコンテンツを見られる分散型メディアの時代には、コンテンツとリンクした生活者へのアプローチが難しくなるというわけだ。
資生堂としては、この現状を踏まえ、生活者とのブランドコミュニケーション活動を転換する必要があった。資生堂の基本方針は「生活者起点」。TVCMで生活者にアプローチする効果が薄れたのであれば、生活者がメディアに来るタイミングでうまく接点を作りたい。
生活者起点でコミュニケーションを行うため、実際に中條氏のグループが行った施策は、主として「データを活用して生活者を把握する」「コンテンツを作って生活者との関係を強化する」「メディアを統合管理して生活者起点で最適化する」の3つであったという。