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Overtureはマーケティング業界に何を残したのか かつてのメンバーがデジタル黎明期を振り返る

検索連動型広告を根付かせるために

安成:Overtureは2002年にスポンサードサーチの提供を開始しました。運用型広告や検索連動型広告という言葉もなかった時代ですが、こうしたタイプの広告を根付かせるためにどんなことをされたんですか?

山口:スポンサードサーチを提供し始めて以降、スポンサードサーチ自体がOvertureと呼ばれていて、「Ovetureを使おう」と言われていました。しかし、そのあとスポンサードモバイルやインタレストマッチなど新しいタイプの広告を提供し始めたので、ブランドや名称を整理しないといけなくなりました。そこで検索連動型広告と呼ぶことになったんです。

山口有希子氏
山口有希子氏:パナソニック(株)コネクティッドソリューションズ社常務 エンタープライズマーケティング本部 本部長
パナソニックのB2Bソリューションビジネスの中核を担うコネクティッドソリューションズ社でマーケティングを統括。シスコシステムズ、オーバーチュア、ヤフージャパン、IBMのマーケティング管理職を経て、2017年12月から現職。

安成:その言葉を選んだのはなぜだったんでしょうか。

杉原:スポンサードサーチ自体は本社と共通していたんですが、日本で根付かせるにはどうすればいいかとけっこう考えました。広告とつけたのは、広告代理店に扱ってもらうのが市場に広める近道だと考えたからです。

安成:なるほど、そういう意図があったんですね。広告代理店というと、代理店制度を作ったのもOvertureだったとうかがいました。その背景を教えていただけますか?

サービス設計&代理店設計

杉原:元々アメリカのOvertureでは広告主に直接利用していただくモデルで、日本でもそうしていたんですが、日本では代理店の存在感が強いこともあり、それを活かすのが市場拡大にベストだと判断し、代理店制度を作ったんです。

 企業向けの認定制度ではシルバーから始まり、スペンドレベルが上がればゴールドやプラチナになり、よりインセンティブがもらえたり、情報が早く手に入ったり、アカウントマネジメントサービスが提供されたりするようにしました。個人向けの認定制度も大事で、ノウハウを学べるなど早期から取り組んでいました。

山口:運用型広告の特徴として、利用するためにかなり勉強しないといけません。いろんな指標がありますし、スキームも難しい。代理店の方でもきちんとした知識がないといいサービスをお客さんに提供できないんですよね。Overtureでもトレーニングチームを持っていて、新入社員には徹底的にトレーニングを受けさせていました。そして社員も認定制度を受けるようにしていたんです。

杉原:僕もトレーニングを受けました。最初に出された課題が、あるサイトを見て300個のキーワードを提出しろというものでした。大変でしたが、だんだんやれるようになるんですね。広告主や検索者の立場でキーワードを考えられるようになる貴重な機会でした。

天野:代理店制度は売上だけで見られてしまいがちですが、難しい商品だからこそパートナーにも同じ理解度で運用してもらう必要があります。その意味では社外に人材を育てたということになるかもしれません。

天野耕太氏
天野耕太氏:Liftoff Mobile Country Manager, Japan
オーバーチュアおよびヤフーで黎明期のスマートフォン広告業界における日本事業立ち上げを経験。2017年より現職であるシリコンバレーのモバイルDSP、Liftoff(リフトオフ)のカントリーマネージャーに就任。

ニックネーム文化がコミュニケーションを促進させた

安成:話は変わりますが、Overtureの社内文化についてはいかがでしょうか。

安成蓉子
安成蓉子:MarkeZine編集部 副編集長
2012年4月に翔泳社へ入社して以降、一貫してMarkeZineの企画・運営に携わる。2015年4月から副編集長となり、2016年1月に創刊した定期誌『MarkeZine』の編集にも携わっている。

山口:今振り返ると、おもしろいカルチャーがあったと思います。企業はビジネスのためにストラテジーを構築し、組織を作りますが、それを動かすのがカルチャーなんです。Overtureでは現在働き方改革で言われているようなことに当時から取り組んでいたように感じます。

 一番特徴的だったのはニックネーム文化でしょうか。社長も役員も現場のスタッフも、みんなニックネームで呼ぶんです。入社してまず決めるのがそれです(笑)。形式張ったコミュニケーションはコストがかかりますから、それを削減しようとしている企業も多いと思いますが、ニックネームはその一つでしょう。そのおかげか、どんな立場の人にも気軽に意見を言えました。でも、それが普通のコミュニケーションですよね。

杉原:最初の社長である鈴木がその文化を作ったんですが、「シグって呼ばないと罰金だから」と言われましたよ。つい鈴木社長って呼んじゃうと本当に罰金を取られるんです(笑)。

安成:トップの人が率先してやってくれたから根付いたのかもしれませんね。

杉原:たしかに、シグがやってくれなかったら根付かなかったでしょう。

天野:さっきから我々も苗字で呼び合っていないんですよ。苗字だとむしろ不自然で(笑)。言葉だけでフラットな組織だとか風通しがいいだとか言っている企業もありますが、Overtureでは喧嘩もしつつ、お互いに意見を言い合えていました。

山口:誰の意見でも、おかしいと思ったらおかしいと言えましたね。

杉原:それは感情的な喧嘩ではないんですよ。まあ、たまに感情的になることはありましたが(笑)、オープンなコミュニケーションができていました。

安成:そうした文化は今の勤め先でも取り込んでいらっしゃいますか?

山口:パナソニックでは風土改革に取り組んでいます。形式張ったコミュニケーションの廃止や、モバイルオフィスの導入、役員室の撤廃などですね。世の中が変化しているので、スピード感を持って意思決定をし、スペシャリストが意見を戦わせることが普通であるカルチャーでないと生き残っていけないんですよ。

みんながハッピーな状態になるためのバランス

安成:次の話題として、「広告主とパブリッシャーとユーザーのバランス」についてはいかがでしょうか。

山口:検索連動型広告はある意味でプラットフォームです。ユーザーが広告をクリックするとパブリッシャーにお金が落ちるわけですが、そのお金は広告主が払っているわけです。広告主は自分のサイトにいいお客さんを連れてくるのが目的なので、そこにバランスが必要になります。

 パブリッシャーが儲けたいからとコンテンツがないのに広告ばかり並べると、広告主は不満を言いますよね。一方で、広告主側も景表法や薬機法に反するような広告を掲載する可能性もあり、そうするとパブリッシャーとユーザーにとって不利益があります。なので、三者のバランスをいかに保ち、みんながハッピーな状態で運営するかが非常に重要です。運用型広告のプラットフォーマーが最も気をつけるべきところですよね。

天野:いろいろなせめぎ合いがありました。やはり、バランスを崩している企業は続きませんよね。

安成:そのバランスは数値でわかるものなんでしょうか。

山口:数値でもわかりますが、バランスが崩れていると広告主からもパブリッシャーからもクレームが来ます。

杉原:デジタル広告って、昔はバランスを取るのが難しいシステムでもあったんです。ちょっと怪しい商品の広告も出せてしまいましたし、不正クリックもかなりありました。今は不正クリックの検出なんてほとんど意識しないと思いますが、2002年当時はそもそも検出できなくて、月末請求のときに不正クリックに気づいて慌てると。

山口:バランスを取るにはプラットフォーマーとしての矜持が必要です。特に検索連動型広告は違法な広告を正していくこと、不正クリックに対処することなど、どうすればユーザー含め関係者全員に利益が行き渡るのかを考えさせられるサービスでした。

Overture出身の先駆者たちの選択と次の一手

Overtureでの経験が活きている

安成:では最後に、皆さんからOvertureで学んだことが今にどう活きているのかを教えていただけますか?

天野:Overtureは本当によくできた仕組みで運営されていました。今は小さい会社で働いていますが、足りない機能がけっこうあるんです。でも、Overtureでの経験があるので、会社に本来必要な機能をあらかじめ想定しておけます。成長過程にある会社で、かつて成功したモデルのフレームワークを使って考えられるのが一番大きな恩恵ですね。

山口:マーケティングの手法はデジタルが当たり前になってきましたが、その先駆けとなるサービスやツールを経験できたことが私の強みになっています。デジタル広告にはまだまだアドベリフィケーションなど様々な問題があります。それらをユーザー視点で理解して、そのうえで広告主として意見を言えるのは、Overtureでの経験があったからこそですね。

杉原:僕はサービス設計やオペレーション設計、代理店制度など、多くの「設計」に携わりました。今はプラットフォーマーではありませんが、設計の考え方はどんなサービスやプロダクトを提供している企業でも当てはまることなんですね。その領域が得意になったのはOvertureのおかげだと言えます。

安成:私自身がこの仕事に飛び込んだとき、Overture出身の方がいろいろと教えてくださったことを覚えています。皆さんのお話を聞いて、Overtureが日本のマーケティング業界に多くの影響を与えていたのだなと改めて感じました。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

翔泳社所属。翔泳社から刊行した本の紹介記事などを執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/08/01 07:00 https://markezine.jp/article/detail/28874

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