妄想を大切に右脳的に発想し、左脳的に分析する

西口:よくわかります、マーケティングにいると、そうですよね。ただ、アイデアの生み出し方には、悩んでいる人も多いと思います。どうしたらそういうアイデアが出てくるのか、出せる人と出せない人の違いはなんでしょうか?
田中:僕も、出せるときと出せないときがありますよ。優秀なチームが出してくれるときもありますし。ただ、ひとついえるのは、僕は妄想を大切にしているんです。自称“妄想マーケター”。日本だと割と、妄想を口にするのは子どものころからたしなめられたりします。
でも僕は、はじめにお話ししたように既成概念をたくさん崩されてきたので、それまでの常識を飛び越えることがスタートラインだという考えがベースにあります。新しいアイデアって、今までのビジネスをちょっとシフトチェンジして新しく見せるか、または完全にジャンプするかの2種類しかないんですよね。
西口:なるほど。
田中:で、ジャンプしたときのアイデアは説明がつかない。最初のひらめきは、右脳です。そこを生み出すのに妄想が大切なんです。
でもビジネスである以上、次には左脳的に考える。なぜ自分がそう思ったのか、暗黙的に感じていたことや、そのひらめきに結びつく最近の風潮を探ったりします。右脳と左脳を行ったり来たりする、という作業ですね。クリエイターのアイデアも絶対に否定しないで、まず皆で自由なアタマで転がしてみる。おもしろくならなければ、止めればいい。
強いビジュアルが生まれるのは、論理的構造があってこそ

西口:その経験や思考から生まれる直感と、論理的分析を、どう組み合わせて使っていったらいいでしょうか?
田中:多分、受け手も無意識に右脳と左脳の両方で受け止めているんですよね。たとえばお客様は、まずおいしそうとかおもしろいとか、右脳から入っていく。でも次に、左脳でも理解しようとしているはずです。ブランドが味をどう保証しているのかとか、価格の適正とかも、メニューを決める一瞬でパパッと考えたりしていますよね。
だから自分が意識的に右脳と左脳を使う場合も、右脳から入ったものを左脳で論理構造化する。売れると考えられる理由はこうで、このコンセプトならこうやって流布するだろう、という論理のピラミッド構造を作るんです。それができたらまた、右脳的視点に戻る。コンセプトが魅力的か、ワンビジュアルで表せているか。
西口:ワンビジュアル、大事ですよね。特に今のSNSの時代だと。
田中:本当、そう思います。ダイオウイカ天のときも、巨大天ぷらが店舗に突っ込んでいるビジュアルが全部のテレビ取材に出ましたし。
西口:あれ(笑)。あれはどなたのアイデア?
田中:あれはクリエイターですね。「店に突っ込んだビジュアル、合成してもいいですか?」というので「あ、店なぁ、ええけどな〜まぁええんちゃう?」みたいな(笑)。でもテレビにあんなに取り上げられたということは、インパクトがあったんですよね。
ただ、いきなりあの画は出せないし、そこから考えるとコケると思います。チーム全員にまずパッションがあり、論理構造を作り、その上でコンセプトとビジュアルを磨こうとしたから生まれたし、当たった。だから最初と最後の条件をいうなら、パッションがあることと、右脳左脳の行き来を経てわかりやすいアイコンになっているか。この2つでしょうね。
後編では、田中さんの思考にさらに深く切り込みながら、ジャンプをともなうアイデアの役員への通し方、吉野家のデータ活用など具体的な話や、またCEOとCMOの関係性にも迫ります。明日31日8時公開なのでお見逃しなく!