自動運転の定義と6つのレベル
その大きな変革をもたらす一因として、クルマの自動運転技術が挙げられます。自動運転とは、文字通り、人による操作を必要としない運転技術のことです。完全な自動運転が実用化されると、目的地までクルマが自走して到達することも可能です。そうなると、クルマに乗っている間、運転操作が必要ではなくなるのです。
自動運転といっても、いくつかの段階に分かれていることをご存知でしょうか。ここ日本では内閣府が主導し、戦略的に自動運転の研究開発を推進しています。その中で自動運転のレベルも細かく定義されているのです。
政府や官公庁が主導して定義されたものというと、日本独自のものになるのではないかという懸念を持つ方も多いかもしれません。しかし、この自動運転分野に関しては、自動車の標準規格を開発している米国の団体「SAE International(Society ofAutomotive Engineers International)」の定義を採用していることから、日本独自のものになる可能性は比較的低いと考えられます。
自動運転のレベルについて少し細かく見てみると、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画」(2018年4月1日)の中では、制御内容によってレベル0からレベル5までの全6段階に分けられています(図表1)。

運転者による操作のみでシステムが一切介入しないものがレベル0で、人間の操作を一切必要としない完全自動運転がレベル5となっています。
この定義でおもしろいのが、レベル4・5においては自動車に乗っている人間は“運転者”ではなく“利用者”という表現になっている点で、そもそも運転を行うという前提さえないのです。
現在、各自動車メーカーが盛んにアピールしている衝突回避のための自動ブレーキ等は、この定義においてはまだまだレベル1にあたり、自動運転ではなく運転支援という位置づけになります。そう考えると、レベル5の実現は相当先の未来になるように感じる方も多いかと思います。
内閣府の目標では、2020年には条件付きで自動化されるレベル4を、2025年には高度自動運転と呼ばれるレベル4の市場化を目指しています。当然ながら、すべてを自動車メーカー任せにしているわけではなく、信号情報や渋滞情報などの交通環境に関わるインフラ整備は、関係省庁や自治体によって進められています。
そして、この自動運転と言う分野で最も興味深い動きと言えるのが、自動車メーカーではないIT企業が続々と参入してきていることです。たとえば米Googleは参入が早く、2009年から研究開発を行っており、現在は「Waymo(ウェイモ)」という名前で分社化されています。IT企業らしい発想で、様々な情報を収集し(ビッグデータ化)、そのデータをAI(人工知能)によって学習し判断することで事故を回避するという仕組みを研究しています。
他にもUberやApple、百度といった企業などに加え、ここ日本でもソフトバンクやDeNAが独自の視点で開発を推進しており、まさに百花繚乱の様相を呈してきています。
自動運転によって生まれる新たな時間
こうした自動運転の実現によってもたらされるのは、ただ単に人間が運転しなくてもよくなるという利便性だけではありません。運転するという行為がなくなることによって自由な時間が生まれてくることになるのです。
“時間”という視点で、いくつかデータを紐解いてみましょう。
まず、総務省の統計データによると、日本における「自家用車のみで通勤・通学している人」の割合は平成22年(国勢調査)の段階で46.5%となっており、実数にすると2,600万人以上にもなります(図表2)。これだけの人数が、日常的に自動車を通勤通学に使用しているのです。

さらに、通勤時間のデータ(平成20年住宅・土地統計調査)を見てみると、平成20年(住宅・土地統計調査)で約過半数(53.5%)の人が30分以内、30分〜1時間30分になると41.2%と、おおよそ9割の人が1時間半以内のエリアから通勤通学をしていることになります(図表3)。

たとえば、全通勤通学者の平均時間を少なく見積もって30分と仮定すると、往復で1時間を費やしていることになります。自動車で通勤通学する人が2,600万人ですから、単純計算で、その人たちが自動車内で過ごす1日あたりの総時間は2,600万時間にも及びます。
つまり、能動的に車を運転している状況から、自動運転が一般化することにより、日本全国で1日に2,600万時間という、“自由”な時間が生まれることになるのです。