商品を中心に置いて、売上を伸ばす
――尾上さんを代表する担当キャンペーンの1つに日清食品の「10分どん兵衛謝罪広告」があります。これも、アジリティを意識されたのでしょうか。
Twitterで「お湯を注いだ後に、10分待ってから食べるとおいしい」という、10分どん兵衛が話題になっていると気づき、これは乗っかるしかないと、すぐに動きました。10分どん兵衛のきっかけは、タレントのマキタスポーツさんがラジオで発言したこと。その食べ方を、どん兵衛のプロであるメーカー側が知らなくてごめんなさいという謝罪広告と、マキタさんと日清食品さんによる対談記事を仕込みました。
特別なことは何もしていません。謝って、ブームを生んだ人と語り合うという人間同士の付き合いを普通に行っただけなんです。実は一つ前のキャンペーンが失敗しており、死にものぐるいで考えた企画でもありました。予算もかかっていませんし、対談から公開まで時間も5日しかかけていないにもかかわらず、うまくいきました。シンプルな企画が、こんなに物を動かすのかと思いましたね。どん兵衛が発売されて40年経つのですが、売り切れる店舗が出るなど類を見ない盛り上がりとなりました。
――かつてはマス広告のおまけ的存在だったデジタルキャンペーンが、リアルな物を動かす時代になったことを証明していますね。
これまで、いろいろと失敗もしてきました。5年くらい前にFacebookを使った飲料のデジタルキャンペーンを行いました。話題性があり、新聞やネットニュースで取り上げられたのですが、商品の売り上げにはつながりませんでした。デジタルのキャンペーンとしてはおもしろいけれど、購入までには至らない設計だったんです。反省しました。
そこで、商品を中心に置いたキャンペーンをやらなくてはと反省しました。のちに、「日清カップヌードル・パスタスタイル」という商品を担当したとき、まず考えたことは売り場で目立つこと。イタリアへ飛び、パスタ発祥の地で試食してもらい、実証風の映像を作り「86%がパスタとして認めてくれませんでした」というキャンペーンを作りました。これがネットで話題となり、想定の3倍の速さで売り切れたんです。商品を中心にして話題を作ると、デジタルキャンペーン発でも物が売れる。これを最初に実感したのがパスタスタイルで、確証を持てたのが10分どん兵衛のキャンペーンでした。
