Facebookが「獲得」系と「ブランド」系の両方の広告主から支持されるわけ
杓谷:Facebookは、コンバージョンを追求する「獲得」系の広告主と、認知や態度変容を重視する「ブランド」系の両方の広告主に支持されているように思います。特に後者はGoogleの苦手な分野ですが、Facebookが両方の広告主から支持されているのはどのような理由でしょうか?
黒田:「獲得」系の話では、ユーザーがあるものを比較検討しているとか、そういうことのシグナルをとらえる努力をしていることが理由だと思います。Webサイトで実行されたアクションを把握して、広告の効果を測定できるプラグインであるFacebookピクセルを広告主のWebサイトに入れてもらうと、ユーザーがWebサイトのどの位置までいったかなどがわかります。買い物かごに入れたとか、どのページまで見たのか、というところまでデータとしてわかるようになります。
Facebookがピクセルを入れてくださいというのはコンバージョンを計測するためです。一義的には確かにその通りなのですが、ピクセルを導入すればするほどユーザーの嗜好がよくわかる、といった側面もあるのではないかと思います。利用すればするほどユーザーへ利便性が還元されていく仕組み、と言えば良いでしょうか。Facebookで表示する情報も精度が高くなるという感じですね。
「ブランド」系の話では、Googleの場合は能動的に情報を探している人に対して広告を出すので獲得系のパフォーマンスが高いというのはよくわかりますが、Facebookのユーザーは能動的に情報を探しているわけではないですよね。空いた時間に見るわけなので。何かおもしろい情報がないかなと見ているうちに広告で表示されたスニーカーを買ってみたり、新しく発売される自動車の動画広告を見たり、Facebookで需要が喚起される、態度変容が起こる、ということは、ごく自然にあるんじゃないかなと感じています。
ユーザーのトラフィックの半分以上は動画になってきていることもあり、ブランド系の広告主はFacebook、Instagramの両方とも当然のように出稿を検討しています。
ブランド目的でFacebookに広告を出稿したいという人達と、販売促進でFacebookに広告を出稿したい人達の2つのタイプがあるとしたら、Facebookとしては、本当はブランド目的で利用したい人達側に行きたいのだと思います。テレビCMと同じ単価で売りたいし、それを目指しているのでしょう。ただし、日本の広告ビジネスの主役であるテレビCMのビジネスとは、効果に対する考え方、測定方法、ビジネス慣習等、乗り越える壁も沢山あるので、当然時間はかかります。
大きな節目を迎えるFacebook
黒田:広告プラットフォームとしてのFacebookの大きなアドバンテージとしては、実名によるコミュニティという点があります。そして、広告主の持つ顧客のメールアドレスなどを元に広告を配信する「カスタムオーディエンス」と、その顧客に類似するユーザーにアプローチする「類似オーディエンス」がFacebook広告の大きな売りだったわけですが、これらの機能の利用にあたって一般企業の持っている情報の取り扱いには細心の注意を払う努力をしてきました。
杓谷:個人的にも、Facebookはニュースフィードのハイライトに掲載する投稿を最適化するためのアルゴリズムであるEdge Rankの概念をはじめ、ユーザーの利便性をとても大事にする企業で、Facebook広告の運用を通じても、Facebookは個人情報を注意深く扱う企業だという印象がありました。
Facebookはオープンなプラットフォームであることを目指していて、FacebookのAPIを使ってサービスのエコシステムを広げることに注力していましたが、ある意味でケンブリッジ・アナリティカがそれを悪用する形になってしまった。そのことに対するプラットフォームとしての責任という意味で、軌道修正が求められているのが現状だと思います。
佐藤:これを抜けると何かまた新しい世界が開けていくことを期待したいですね。今はひとつの節目のように思います。
収益化が難しいとされてきたコミュニケーション・コミュニティ領域ですが、Facebookが運用型広告を導入することで初めて本格的な収益化が成功し、その後の飛躍的な成長につながりました。その成長の背景にはAdWordsで培われた運用型広告での経験が活かされています。今後も様々な試行錯誤を続けながら、ユーザーと広告主のバランスを取ることが求められていくでしょう。