雑多な関心を捉えるヤフーのデータがもたらす価値
川邊氏は「ビジネス上の競争優位という点で圧倒的に差が付くのは、3つ目の特徴の部分。すなわちデータの量とその質」だと強調する。
「今春の新社長就任会見時、当社は『データの会社になる』と打ち出しました。これはデータの量と質に焦点を絞り、ビッグデータ×AIによって付加価値を生み出せる会社へと転換することを意味しています。そんな会社になることが重要なのは、何も我々のようなIT企業にとってだけでなく、製品やサービスを提供する企業にとっても同様にいえることだと考えています」
では、具体的にデータの質をどのように維持・向上し、その質を担保するデータの量をどう確保していくべきか。そこにヤフーは、同社の事業性ならではのユニークネスをもって挑んでいる。まず質の部分では、検索をはじめとする同社が提供するサービスが極めてバラエティに富んでいることが大きい。一瞬で移り変わってしまう人の関心を、生活に密着した多様な接点で捉えることで、アンケート調査などでは得られないリアルな生活者像を把握できる。
そして量的には、検索や記事のクリック、またYahoo!ショッピングでの購買といったアクションの総数が、月間700億に上る規模となっている。「こうした雑多かつ多様なデータが大量にあることが、一人ひとりのユーザーを理解するためにとても重要だと、我々は経験上で理解しています」と川邊氏。
さらに今は、同社がユーザーの利便性向上のためにサービスを多様化したり、あるいはSNS各社が人々の会話の場を充実させたりして結果的に雑多で大量なデータを得て価値化していった流れではなく、“雑多なデータを取得する”ことを目的に戦略的にサービスを作る、といったパラダイム転換が起きる兆しもあるという。
ビッグデータ×AIがもたらす複利的な成長
ただし、そうやってビッグデータを収集し、AIを掛け合わせて付加価値を生み出す際の条件もある。「扱うデータは大量でも細かくPDCAを回して、少しずつ効果を蓄積していく『試行錯誤できる組織』になることが重要」だと川邊氏は指摘する。
では、ここまで述べてきた「ビッグデータ×AI」によるデータドリブンマーケティングによって、どのようなサービスの改善ができるのだろうか? PDCAの流れは、こうだ。ユーザーがサービスを利用し、データが蓄積され、それをAIで解析することによって人間が気づき得なかった気づきを得る。それをサービスに反映すると、ユーザーの満足度が向上してさらに利用の度合いが高まり、もっと改善していける。
この活動には「永続的」と「複利的」という2つの特徴がある。まず永続的とは、この改善をコンピューターが行う限り、人と違って休むことなくずっと成長し続けるということ。そして複利的とは、少しずつの改善が、しかし毎日積み重なることだ。川邊氏は「複利的な力はやがてすさまじい成長をつくり出す」と実感をもって語る。
実際、ヤフーの各サービスもビッグデータとディープラーニングの技術を掛け合わせて活用し始めてから、大幅な成長を遂げている。たとえばYahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)では、ディープラーニングの導入前後で10倍以上のCTRおよび売り上げの差が生じている。ヤフオク!、Yahoo!ショッピングなどユーザー向けサービスでも、2・3倍のCVRを実現している。