KPIでなくKGI「売上成長」で効果を実感
――広告キャンペーンで失敗が許される環境って、なかなかないのでは?
正親:Webなんて、全部失敗ですよ(笑)。
眞鍋:やる前に「絶対大丈夫です」と言えないのがWebですからね。
正親:Webで99%失敗しても、それにしっかり向き合うことが重要だと思います。なかったことにしてはいけない。「何か1つは残そう」とやれるかどうかですね。
山本:大塚製薬さんの場合は、事業部のトップの方がクライアントの現場の皆さんを含め、我々チームを信頼して下さり、一定の権限を与えて下さるからこそ、できるんですよね。施策のKPIだけを細かく追い求め、小さい失敗もできない環境が営業だけでなくチーム全体に蔓延してしまうと、膠着して新しいアイデアがなかなか生まれない。信頼したチームに多くを任せて下さる、アイデアを出しやすい環境を狙いを持って作って下さるところが、大塚製薬さんの企業文化だと感じています。

――このキャンペーンには、KPIはないんですか?
山本:もちろん、KPIや目標はあります。YouTubeの再生回数とか、ライクの数、Twitterでの反応など定量定性で日次細かく見ています。ただ、数字がすべてとはならないように、Webプロモーションを通じてどれだけブランドの価値が伝わっているか、クライアントさんと日々対話を通して、成果を共有していきました。
キャンペーンが効いている実感はありましたが、あるタイミングで若年層の売り上げが大きく伸び始めたという話をクライアントさんから伺いました。つまり、腹落ちできるほどの効果をクライアントさんに実感いただけたことで、個々の細かいKPIだけにとらわれすぎないというベースができました。
正親:今年リアルイベントを実施したときには、クライアントさんも4,000人がダンスを踊る光景を目の当たりにされました。私も少しドキっとするような、心が揺さぶられる感覚がありましたが、あの場に立ち会っていただけたことも良かったですね。
ブランディングとWebは相性が悪い?
――最後に、Webブランディングにどのような可能性を感じているか、伺えますか?
正親:Webは、ブランドと遠いところにあると思います。Webでみんなが見てくれるものは、短くて、ショックが大きくて、強いものなので。ブランディングのように「ちゃんと話を聞いてほしいんだ」というものと、Webの相性は悪い。でも、何かできるんじゃないかと思って、やっています。
長尺の動画などを見てもらえると、ブランドのことを理解したり好きになってもらえることがたまにあります。では、その長尺のコンテンツをどういう人が見てくれるのかというと、元々そのブランドが好きな人が多い。じゃあ、そのコアなファンをどう増やしていくかというと、ブランドが好ましい人格を持つことが重要……。Web単体で考えてしまうと、この袋小路をグルグル回ってしまうのではないでしょうか。
眞鍋:スマホの中に出てくるものって、望んでいない限り、すごく邪魔なものじゃないですか。そもそも不利なところから始まる。だから、スマホだけで考えるのではなく、リアルイベントと絡めたり、体験をどう作れるかというところまで広げると、いろいろ可能性が出てくるかもしれないですね。
――ブランディングの依頼があったときに、広告で何を目指すのですか?
正親:「好きになってもらう」ことですね。どういう人格とか、商品としての核を持つのかは、広告を作るチームがどういう人で成り立っているかが、そのまま出ると思いますよ。
眞鍋:確かに、人の捉え方かもしれないですね。僕たちが、人をどう見ているか。人をデータとして見ているのか、もしくは一人ひとりと向き合いつつ、好きになってもらうことを本気で考えられているのか。
正親:「理詰めでやりたい」というクライアントには、そういうチームが付くべきだし、「もうちょっと人間に寄りたい」というところには、そういうチームが付いたほうがいい。そこが幸せなマッチングになっているかどうかが重要な気がします。