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インターネット広告の歴史と未来

スマートフォンがもたらした新しい動画広告の視聴の形


スマートフォンのYouTubeの動画視聴数がデスクトップを上回る

杓谷: 2008年前後だと、「YouTubeなんていう海賊版サイトに広告を出すなんてとんでもない」とボコボコに叩かれていたわけですが、2014年頃には積極的に活用すべき媒体として成長していきました。この流れを体験したことが、後のファイブ(FIVE)の創業につながっていったのでしょうか?

菅野:FIVEにつながる流れとしては明確にデータとしてありました。当時、スマートフォン経由でのYouTubeの視聴数が既にデスクトップを上回っていたんです。しかし、TrueViewの動画の視聴完了数はデスクトップとモバイルで比較するとモバイルは半分だったんです。ユーザーエクスペリエンスがデスクトップとモバイルでは圧倒的に違うわけです。

杓谷:スマートフォンの検索数がデスクトップを上回ったのが2015年ですから、それよりも早くYouTubeは上回っていたということになります。これは象徴的な出来事ですね。

菅野:動画の視聴回数はモバイルのほうが多いのに、広告の効果はデスクトップの半分でCPMも低い。この現象を見て、モバイルにはモバイルに適した動画のコンテンツや見せ方、ターゲティングがあるのではないかと考えるようになりました。その中で、学生時代に考えていた可処分時間の奪い合いという考え方に立ち返って考えてみました。

 動画は尺が存在しますよね。時間軸で考えた時に、バナーやテキストはある意味でクリックという「点」の世界です。ただ、動画だけは「線」の世界なんです。作り手が時間を支配しています。作った人のペースでしか進行しません。まとまった時間のあいだ動画コンテンツをすべて見ることを前提に作られているので、動画の作り手の時間軸に付き合っていただかないと、意味が伝達されません。そこが他のフォーマットと大きく違うところだと思います。

 たとえば、本をよく読む人は文字を読解するスピードが速いですよね。自分のペースどんどん読んでいくことができる。この場合、情報の受け手が時間軸を支配していますよね。一方で、動画は発信側の時間軸に付き合ってもらわなくてはいけないので実は動画はユーザー側の負荷が高いフォーマットなんです。この問題がデスクトップとモバイルのねじれ現象の根本にあると思います。

 当時リサーチをしていたのですが、スマートフォンの利用は端的に言うと「高頻度」「短時間アクセス」でした。1回あたりのインターネットへのアクセスする時間が短いわけです。PCの1セッションあたりの平均利用時間に比べるとモバイルは約3分の1でした。

 スマートフォンでは電車を待っている間の1分間にインターネットへのアクセスをするわけですが、その1分間という限られた時間の中で動画広告を視聴する時間をどのくらい占めることができるのだろうか? と考えました。1分間のセッションあたりの30秒、つまり50%を動画広告が占めるかと考えたらちょっと疑問符が出てきます。

「高頻度」「短時間」のスマートフォンと「フィード」型UIの登場

菅野:こういった背景の中から、2014年にFIVEを立ち上げ、5秒で伝わる動画広告を打ち出しました。調べてみると、以前民放で5秒のテレビCMが放映されていた時期があったようです。当時のクリエイティブを見ると、その5秒でしっかり成立しているように見受けられました。しかし、経済効率性を考えると、15秒一本で売れるのであれば営業工数も少なくなるのでそのほうがいいわけです。そういった様々な要素があって今の15秒、30秒という形に収束してきました。

 翻って、スマートフォンでの動画視聴を考えた時に、広告はやはりそういった視聴環境に合わせて変えなくてはいけないと思いました。当時、YouTubeのTrueView広告は5秒でスキップ可能になる仕様でした。だったら5秒以内に伝わる動画広告という形がいいんじゃないかということでスタートしました。それが2014年のことです。

 今は5秒以外のフォーマットもありますし、どんどん視聴時間が延びている傾向にはありますが、少なくとも当時はとても短い状況でした。たとえばVineという6秒のルールの動画プラットフォームがありました。MixChannelにも10秒動画のコミュニティがあったりしました。Tastemadeなども1分弱の料理動画を集めていました。そういった「高頻度」「短時間」のデバイス向けのコンテンツが世の中に増えていたので、そういった文脈にFIVEも乗っていくことになりました。

 あとは、スマートフォンの文脈でいくと、2012~2013年ごろに大きな変化がありました。それがフィード型UIの登場です。Facebookのタイムラインをはじめとして無限スクロール形式が台頭し、それがスタンダードになって他のアプリにも波及していきました。そうなってくると、この指を繰る動きを止めて動画広告を見てもらうことを意識する必要が出てくるようになりました。それを「ゆびさきHack」と呼んでいます。そういったスマートフォンという新しいデバイスの登場と、タイムライン/コンテンツフィードという新しいUIの延長線上に動画広告が出来上がってきたというところだと思います。

 2014年当時は、YouTube上でプレミアムコンテンツがどの程度爆発的に伸びるかについてもやや懐疑的に感じていました。テレビで放映される番組のコンテンツのオンライン化は時間がかかるだろうと予測していました。なぜなら、日本では制作会社ではなくテレビ局がコンテンツの権利を持っている。アメリカであれば、テレビ局ではなく制作会社が権利を持っているので、制作会社からするとテレビに配信するのもインターネットに流すのも一緒というわけです。日本のインストリーム動画広告市場がアメリカのような伸び方はしないだろうと感じていました。

 動画コンテンツの前に動画広告が表示されるという状況が増えないと、広告主から見るとあまりリーチが増えない。それがTrueViewなどのインストリーム広告だけでなく、動画外に広告が表示されるアウトストリーム広告が出てくるきっかけにもなっているのだと思います。現在では、民放各局の資本が入った動画プラットフォームが登場してきており、インストリーム動画広告を取り巻く環境も変わりつつあるわけですが。

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この記事の著者

杓谷 匠(シャクヤ タクミ)

Jellyfish Japan株式会社 Data Strategy Director
2008年に新卒一期生としてグーグル株式会社に入社。2010年にスタートアップの立ち上げに参画したのち、しばらく川原でひざを抱える日々を経験。2013年からトリップアドバイザー株式会社にてSEMアナリスト、BIアナリストを経験したのち、20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/01/29 10:03 https://markezine.jp/article/detail/29656

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