アプリエコノミーの強烈な成長曲線
菅野:その後、プロダクトの仕事をしたいなと思うようになりました。2009年にGoogleはAdMobの買収を行い、Androidにも本格的に力を入れていくことになりました。当時はiPhoneが3から4に移行する時期で、ソフトバンクからしか購入ができませんでしたね。スマートフォンがグローバルで大きく飛躍する兆候がいろいろなところで表れていた時代でした。

杓谷:当時はあのスマートフォンの小さな画面の中でデスクトップの画面が表示されるという状況でした。まずはスマートフォン向けのWebサイトを作りましょう、というところから始まりましたね。
菅野:買収後のAdMobの立ち上げを担うモバイル専門のグローバルチームが立ち上がったので、そこに手を上げて異動しました。買収直後のAdMobのチームがGoogleに合流したわけですが、そのチームにGoogle側から参加したわけです。2010年の終わり頃のことです。よりスタートアップな環境に身を置きたいという思いと、プロダクトに近いところにいたいという思いが強くありました。
AdMobの立ち上げに携わることでアプリエコノミーの強烈な成長を目の当たりにしました。アプリの広告による収益化が初めてできるようになった頃だったので、本当に強烈な成長曲線を見ることができました。
当時、アプリが広告主にとっての新しいタッチポイントだといち早く気づいた広告主は、先行者利益を得るために積極的に投資していきました。未開拓でルールがまったくないなかから市場ができていく過程を体験できました。
エモーショナルなものを届けられる魅力を感じてYouTubeへ
菅野:2012年頃にAdMobチームがAdWordsに統合されたあと、自分は何をしようかなと考えたとき、次は動画だと思いました。YouTubeでTrueViewが立ち上がり始めた頃にプロダクトのマーケティングチームに手を上げて異動しました。
ターゲティングの精度を高めて個人と関連性の高い情報を届けるアドテクノロジーの世界に興味がありました。ですが、それは広告が届けられる価値のほんの一部だと思っています。知らなかったことを知るとか、「おもしろそう」「なんか好き」とかを思ってもらうという価値も広告にはあるわけです。YouTubeは完全にこの後者の話だなと捉えていました。
杓谷:当時はアトリビューションの流れも来ていたので、広告のアシスト効果などが検証されていたタイミングでもありますね。
菅野:2006年にGoogleがYouTubeを買収するわけですが、その時に検索エンジンのGoogleが動画の世界、コンテンツの世界にも足を踏み入れるんだとワクワクしたというのもきっかけのひとつとしてありました。映像というフォーマットはよりエモーショナルなものをユーザーに届けられる分野ですよね。その領域はとてもおもしろそうだなと感じました。
菅野:Web向けに動画を作るということは今でこそ当たり前になりましたが、当時はベストプラクティスがまったくない状態で、クリエイティブの重要性をインターネット広告業界全体が今ほど重視していなかったように思います。
杓谷:当時のYouTubeはデスクトップで見るもので、スマートフォンで見るものではなかったということも大きかったでしょう。
菅野:いちユーザーとして見ても、ちょっと違和感のあるTrueView広告が多かったので、もっと良い形にできるのではないかと思って仕事をしていました。テレビで使用した動画素材をそのまま利用するのとは違うやり方があるのではないかと感じていました。今でいうバンパー広告であるとか、それにつながるフォーマットのあり方を試行錯誤していましたね。
あとはクリエイティブに関する課題も感じていました。テレビの世界で活躍している優秀なクリエイターたちが、デジタル・エコノミーの世界にもっと入ってくるべきだなと思っていました。インターネット動画にチャンスを感じてスタートアップとして参入して活躍するプレーヤーも出ていましたし、YouTuber的な動きの走りもありました。広告主、クリエイター、マーケターなどいろいろな人達が新しい取り組みを始めていたところでした。