相手が聞き入れやすいタイミングはどこなのか

西口:確かに、同じ意見でも言われる側の状況によって全然受け止め方が違ってきますね。
石谷:やはり、それまでやってこられた方々を尊重したいですし。もっといいやり方があると思っても、現状でうまくいっているなら様子を見ますし、提案するならうまくいかなくなったタイミングですよね。
西口:それは、どういうところから身につけた方法なんだろう? カルチャーの違いということだと、アイムス(※P&Gが一時期買収して経営していたペットフード会社)に出向していたときの話でも挙げていましたね。
石谷:そう、UCCの同じく外から来られた役員にもアドバイスをもらいましたが、確かにアイムスでの経験も大きいですね。P&Gにはたくさんフレームワークがあるし、ビジネスを前進させるノウハウもあるけど、以前からいる方々にいきなりそれを押し付けたら、過去の全否定になってしまう。
それまでの買収や、アイムスでの初動でもそういう失敗があったので、以後のアイムスでは既存のビジネスモデルや仕事の進め方を理解しながら、3年かけてコツコツと新しいビジネスモデルを作って着実に成長できたんですよね。UCCでも、まずは今ある仕組みを理解することから始めました。マーケティングのスタッフにも、いきなりP&Gの理論は持ってきません、と宣言したんです。
キャリアのロードマップを具体的に描けるように

西口:確かに、良かれと思うことが裏目に出ることもありますよね。人材育成の点では?
石谷:経営陣に対してと同様に、そんなに取り繕っても仕方ないと思うので、自然体でいるようにはしています。ひとつあるとすると“アプローチャブル”な姿勢は気をつけていますね。いつでも話しかけやすい、近づきやすいスタンスというか。だからなるべく自席に居続けないようにしていますし、今いいですか、といわれたらよほどのことがなければその場で対応するとか。
西口:なるほど、細かいことだけど、そういう雰囲気は大事ですね。
石谷:たとえば誰かに話があったら、部屋に呼びつけるのではなく、私のほうがその人のところへ行く、とか。そういう積み重ねで、関係ができていくと思うので。
西口:UCCでは、若手の方のキャリアパスやキャリア観はどのような感じなんでしょうか? おそらくP&Gとは随分違うんじゃないかと。
石谷:そうですね。P&Gのように経営やマネジメントを目指してアップアウト、“卒業”していくつもりの人は少なくて、どちらかというとずっと勤めようと思って入社するし、経営側もプロパーを大事にして終身雇用をベースに育てています。
ただその分、キャリアのロードマップを明確に描けている人は多くないと感じますね。実は当社には様々な事業があるから、グループにいながら視野も領域もどんどん広げられます。本社CEOは無理でも事業会社や子会社の経営に携わる可能性は十分あって、経営陣もそういう志向を期待しているんです。そこが伝わりきっていないから、今そういう道筋をもう少し具体的に示そうとしています。