小さくてもいいのでやり遂げる経験を

押久保:そんなお話しの中で、あえて1つ身に着けて欲しいスキルをあげるとするとなんでしょうか。
大木:まず仮設構築力ですね。『つまりこういうことだ』という意思を、自分の中に持てること。自分が迷ってしまうと信じるものがつくれなくてデータのグラフさえもぶれてしまうかもしれない。そこは右脳派・左脳派であっても大事だと思います。
河本:私が学生に言っているのは、卒業するまでに小さくて良いから、自分で一通りできる自信をつけなさいということ。今の教育はいろいろと詰め込みすぎていて、沢山学んでもそれを自分で使えるようになるところまで至らないことが多い。自分はここまでのことはできるということがわかっていれば、社会に出たときに彼らの助けになるだろうと思っていますので、その自信をつけてあげたいなと。
押久保:なるほど。自分の中で物差しをもっておくことは大事ですよね。もうひとつ、成長するためにはどういう環境に身を置くと良いと思いますか。
大木:当然ながら、リアルなデータに触れるというのが物理的に大事なこと。あとはそれに対して受発注の関係はあるのですが、クライアントと良いタッグを組んで1つのチームとして僕らのようなサポートを受け入れてくださる、しっかりと料理を振る舞えるような場所にいると人も成長していきますね。要は一方的ではなく、互いに意見を出し合って議論し、PDCAがワークするような環境というのが、成長する上で理想的だと考えています。
そういった場を与えられたときには、臆せずにチャレンジする気持ちと、極小的な視点ではなくクライアントのビジネスをどうするか、さらにその先にいる生活者にまで想いを馳せることができるかがすごく求められると思っています。
あえて崖に落とすような経験が人を成長させることも

河本:僕は事業会社の立場にいたので、その点については違う答えになります。人が育ちやすい、筋の良い案件の条件ってきっとあると思っていて。前職であるガス会社の場合で話せば、データ分析だからこそ可能な体験であったり、分析の良し悪しで成果が明確に変わってくるような、努力した結果が成果にも裏返せば責任にも問われるお題というのが良い。そういうお題はいくらでもあるわけではないので選ばなければなりませんが。
僕なんかはいじわるなので、新入社員が入ったときには、筋の良い案件で、かつ相手が手ごわい体験というのをあえて用意していましたね。何故かというと、そうした環境下で自分の意見を通すことがいかに大変で、それを乗り越えたときの達成感がいかにすごいかを新入社員のときに体験させたくて。先輩のアドバイザーはつけるのですが、担当は一人だけにして責任逃れできないようにしていました。いきなり崖から突き落とすような感じですが。
大木:その姿勢は私も見習おうと思います。河本さんのおっしゃる筋が良い案件だと、つい自分で対応してしまおうと思いがちですが(笑)。
押久保:最後に、これからデータサイエンティストになりたい、マーケターとしてもデータを使ってやっていきたいという方たちに向け、メッセージをお願いします。
大木:我々は、クライアントをサポートする立場として、アクションに直結できる多彩なビジネスに関われるんです。デジタルやプロモーション、イベントといったように。ですので、分析だけでないビジネスそのものをデザインするという気概と、色々な人がいても臆さずファシリテーションする気持ちは持っておいていただきたい。
それとデータ分析の目的は、サービスとして提供する以上、その先の生活者やユーザーを幸せにすることなので、そうしたことに少しでも興味を持つ姿勢を大事にしてほしいです。
河本:データサイエンスというと、分析方法にフォーカスがいきがちですが、分析方法という専門力に加えて、自ら課題発見し、データと分析力でその課題を解決する、価値を作るところまでできる人材の育成を教育でして、世の中に送り出そうと思っていますので、企業の皆さんよろしくお願いします(笑)。
それと、大学院も作っていくとお話ししましたが、アメリカの場合などは大学卒業後に企業に勤めてから自費で大学院に戻ってくるケースが一般的で、日本でもそういうケースが増えてきています。
既に何年か仕事をしていてビジネス的な課題に対する感覚は持っているけど、データに対する専門力が弱いと悩まれている方には、大学院教育も選択肢として検討いただきたいですね。