「効率化」に終始しない体験を創出
丸亀製麺の話に戻りますが、今回取り上げたオムニチャネル戦略は、紙のレシートとデジタルを連携させた「ロイヤルティプログラム」とも言い表すことができます。
このやり方は、やはり冒頭で触れたファストフードやコンビニエンスストアのように回転率・来店頻度が高い業態に適している戦略だと思います。同じ店舗内オペレーションの効率化でも、中身は当然違いますが、セルフレジでは顧客と店員の接点が分断される一方、丸亀製麺の公式アプリでは顧客と店員の両方をシームレスにつなぐことができます。
そして何より、複雑化していく顧客データ取得やパーソナライズ化は、「購買後」の時間や、使用・消費後に顧客自ら能動的に行ってもらうことで、一貫したデジタル体験の提供を可能にしています。
この戦略が適用できそうな業種・業態の企業が、今回紹介したメリットを把握していながらも実行に踏み込んでいない背景には、「過度なディスカウントはしない」など何かしらの経営判断があるのかもしれません。ただ、それ以上に「購買」の瞬間にばかり目がいくことで、金銭の受け渡しの効率化を目指した「セミセルフレジ」の導入や、会計の場での複雑な顧客対応に終始してしまっていることが問題だと言えるでしょう。
デジタルを活用し、吸引力のある「場」を設計
これからの時代、本質的な顧客データ管理を実行する上では、ますます「顧客時間」における「場」が重要になっていくでしょう。オフラインの店舗であっても、Webやアプリなどデジタルを上手く取り入れた「場」は、顧客を吸引する力があります。
今回のケースで言えば、紙のレシートをスマートフォンでスキャンすることは、非常にシンプルな行為ですが、このようにシンプルで簡単なアクションによって特典が得られると、顧客の常習性・習慣化につながります。人間の心理をうまく捉えた施策、それが丸亀製麺の公式アプリなのです。

今回は、丸亀製麺の公式アプリ施策から、店舗という「場」の活用について考えました。マーケターの皆さんには、ぜひ単に店舗を「購入」の場と捉えるのではなく、購買後も顧客と上手くつながることを可能にするタッチポイントの提供の場(今回で言えばレシートのQRコード)、また、顧客データを巧みに拾い、顧客とのエンゲージメントを構築する場として活用してほしいと思います。
次回は、「DM(ダイレクトメール)」に関する話をします。ここ数年、日本郵便が主催する「全日本DM大賞」の審査員を務めていますが、私はこの紙媒体の進化とデジタルの融合・活用がもたらす優れた場の設計に注目をしています。顧客体験が複雑になればなるほど、デジタルとアナログの融合およびその設計が必要になっていきます。まさに今、統合マーケティングの重要性と可能性が広がってきていることを解説できればと思います。