※本記事は、2018年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』36号に掲載したものです。
反社会的勢力に加担してしまうリスク
資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部長 小出誠(こいで・まこと)氏
1984年資生堂入社。大阪地区での営業部門を経て、商品開発部、後に宣伝部にてプリント媒体の出向、イベントを担当。1994年には経営企画部にて企業理念作りなどを担当し、2003年にプロフェッショナル事業部でヘアサロンへの業務用品事業、美容院などのサービス事業運営などに携わる。2008年は経営企画部で企業サイトの運営などを担当後、2014年にコミュニケーション統括部長に。2015年資生堂ジャパンのコミュニケーション統括部長、2018年に組織改編に伴う名称変更があり、現在のメディア統括部長となった。※2016年11月より日本アドバタイザーズ協会デジタルメディア委員長。
――御社はどういった背景から、アドベリフィケーションへの取り組みを本格化しているのでしょうか?
本来、広告とはマーケティング上でなんらかのプラスの成果を期待して出稿するものです。広告を出して結果的に成果が出なかったとしたらそれも課題と考えますが、絶対に成果が出ないところに無駄に出している、あるいは出すこと自体がリスクをはらんでいる状態はそれ以前の重大な問題です。それがデジタル上で発生していて、積極的に除外すべきだと判断したので、アドベリフィケーションに取り組んでいるのが現状です。
実際にツールを選定したのが2017年後半、運用を開始したのが2018年はじめからですが、問題自体は2、3年前から感知していました。その流れの中で昨年春、読者の皆さんもよくご存知と思いますが、アメリカを中心とする世界的なデジタル広告業界団体であるIAB(Interactive Advertising Bureau)のカンファレンスで、米P&Gの最高ブランド責任者が広告価値毀損に関するスピーチを行い、大きな議論を呼びました。アメリカではこれを機に広告主主導で一気に対策が動き出しています。
同じころヨーロッパで、イスラム圏の反社会的勢力がYouTubeに投稿した動画にブランド広告が入り、同団体の資金源になっているのではという議論が起こったり、同様にヘイトスピーチの動画に広告が入ったりしたことを受け、いっときYouTubeの広告不買運動が起こる騒動にも発展しました。
これらは決して対岸の火事ではありません。自社ブランドがリスクを負うだけなら自業自得で済むかもしれませんが、万が一にも反社会的勢力の資金源になってしまったら、社会に対して大きな損害を与えることになります。自分たちが意図せず騒動を起こす側にならないようにどうすべきか、具体的に考えるようになりました。